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六年前、高校を卒業する時に東京へ出るクラスメイトみんなでスマートフォンの電話番語を教えあった。
連絡しようね、東京で集まったりしようよ、と誰かが言い出し卒業の感傷も手伝ってそれほど仲のいいわけでもないのに連絡先を交換し合ったのだ。
けれど、今まで誰かにかけたことも、かかってきたこともなかった。
それで構わなかった。
高校時代なんて存在しなかったかのように過ごしてきたというのに、なぜ僕は誘いに応じてしまったのだろう。
もう、制服姿ではない僕たち。
狭い世界に押し込められていた頃とは違うんだ。
そのことを確かめたかったのかもしれない。
「確かめる?」
「お互い、社会人としてちゃんとやっているってことを」
そんなことをわざわざ確かめる必要なんてなかったんだ。
そうしたら、あんなに面倒臭いことに巻き込まれずに済んだのに。
「後悔先に立たず」
彼が言う。
「覆水盆に返らず」
僕が返す。
「他になにかあったっけ」
「時にすでに遅し」
「後の祭り」
「落花枝に上り難し」
「破鏡再び照らさず」
「けっこう色々ありますね」
「それはつまり、同じような思いをした人がたくさんいるってことだ。そう思うと、ちょっと心強くならないか?」
「まあ、そう思えなくもないですけど」
「で、何かあったの?」
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