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いや、時間ないんで、はっきり大きな声で言えばいいのにもそもそ口の中で言うから「あ? なんだ? 」と挑むような口調で聞き返され「いや、あの」ともごもごしているうちに「ほら」と腕を掴まれてしまう。
高校時代と全く同じだ。
下剋上キビシイ、昔刷り込まれた条件反射が自分の中にしっかりと残っていたことに驚き、うんざりする。
まさか、財布出せとかいうんじゃないよな。
あの頃は被害を最小限に食い止めるために小銭しか持ち歩いていなかったが、さすがに社会人となった今は何枚かの札が入っている。
いくらだ?
今、財布にいくら入っていたっけ?
必死でそんな計算をしている自分が情けない。
ドアが開く。
簡単だ、その手を振り払うだけでいい、頭でわかっているのにずるずるついていってしまう。
なぜだ、どうしてこんなやつの言いなりになってしまうんだ、と思う背中でドアが閉まり、電車は走り去っていく。
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