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「たいしたことをしているわけじゃないよ。リースしたコピー機の調子悪いから見てくれって呼ばれてその修理と点検をしているだけで。宇津木さんは?」
名前を声に出すと喉がつかえるような感じがした。
そうだ。僕は一度も面と向かって名前を呼んだことがなかった。
嫌な汗が噴き出る。
「あー俺、今、ここに居んの」
宇津木は四角く薄い鞄から黒い皮の名刺入れを出すと一枚抜いて僕に差し出した。
宇津木不動産。
ああそうか。
「ああそうか。コネ入社ね、って思っただろ?」
左の頬だけでにやりとする宇津木に僕は慌てて「いや、うん」とわけのわからない返事をした。
人は急に本当のことを言われると慌てるものだ。
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