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「おまえはさ、ただテストができるだけなんだよ。あんなのゲームみたいなもんだ。攻略法を勉強して覚えてあてはめて解くだけだ。頭のいい悪いはテストの点数じゃないぜ。俺達は結構洗脳されている」
「洗脳?誰に?」
「そりゃもちろん社会、世間、学校にさ。国に、と言い換えてもいい」
整髪料を付けてセットされた黒い髪、きちんとしめてある紺地に白と赤の細いストライプが斜めに入った無難なネクタイ、目の前に座っているのは本当にあの宇津木翔なんだろうか。
それでもふんぞり返るようにベンチに座って組んだ足をぶらぶらさせる仕草は昔と同じで、揺れる尖った靴先を見ているだけで身体が縮こまっていく。
このお馴染みの威圧感、やっぱり宇津木だ、そう感じた途端早くここから逃げ出したくなった。
電車が参ります、機械的な女の人の声に助かった、ほっとして僕は立ち上がる。
「もう行かなきゃ」
「まあでも、悪かったと思っているよ」
ベンチに座って胸をそらせた姿勢のまま宇津木は言った。
え?
今なんて?
思わず足が止まった。
「コーヒー一本でチャラにするわけじゃないが、いろいろすまなかった」
プアン、電車がぐんぐん迫ってくる。
プシュ、扉が開いてザザアと降りてくる人たちの流れの中、つっ立ったままの僕は押され迷惑がられ小突かれて、はっとして前に足を踏み出した。
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