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「偶然ばったり会うなんてすごくないか? そんなことってあり得ないだろ? このままサヨナラっていうのも勿体ない気がして飲みに行こうって話になって、どうせならついでに東京にいるやつらを誘ってみようってことになって片っ端から電話したんだ」
「さすがに年数たってるから、現在使われていません、っていうのもあったね」
指定された居酒屋に行くと、待ってましたとばかりに二人がマシンガンのように喋り出した。
「富樫って田舎に帰ってたんだな。今どこにいるのって聞いたら栃木、って」
「須藤さんは大阪に転勤していたし」
「で、来たのは山田だけ」
「しかも同じ新宿にいたなんてすごいよね」
「偶然過ぎる。ヤバい」
「ヤバいね。あ、山田さん、何を飲む? まさかウーロン茶とか言わないよね?」
片っ端から連絡を取ってがうまくいかず、最後に繋がったのが僕だったという話に笑える要素が全くないことに気がつかない二人が手を打って笑うのを無視して近くに来た店員に「生ビールひとつ」と注文した。
「山田が生ビール」
「何?」
「いや、山田でもビール飲むんだ、と思って。そうだよな。オレ達もう高校生じゃないんだもんな、いくら真面目なやつでもビールくらい飲むよな」
「あれ、鈴木さん、山田さんと飲むの初めてなの? たまに会ったり連絡をとったりしていたのかと思った」
「いや、全然」
高校時代にほとんど話したこともないやつと、東京に出て来てから急に仲良くなったりするものか。
「とりあえず乾杯しよう」
村上が飲みかけのビールジョッキを掲げた。
「それでは、えー、六年ぶりの再会に乾杯」
乾杯と言いながらすでに後悔していた。
相変わらずどうでもいい、くだらない話ばかりだ。
いつ抜けようか。
どうやって抜けようか。
そんなことばかり考えていた。
だから健康器具の卸販売をしているという鈴木が、明日も土曜なのにスポーツジムに納品に行かなきゃならないんだ、と帰りたそうな素振りを見せた時、ほっとした。
「じゃあ、僕も」
立ち上がろうとした僕の腕を村上が掴む。
「このグラスが空になるまでぐらい、つきあってよ」
村上のジョッキはまだ半分も空いていない。
「でも」
「つきあってやれよ。明日、休みなんだろう?」
あ。嵌められた。
そう思った。
およそらしくないことを、村上は言ったのだ。
「今晩だけでいいから、山田さんのところに泊めてくれないかな。私、今、家がないの」
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