僕は君に会いに行くよ

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「質問の仕方にコツがあるんだ。なんていうかこう、質問の中にツッコミどころをいくつか仕込んでおくとか」 「そういうものなんですか?」 「そうだよ。あれって、質問がボケで回答がツッコミだから」 「そうなんですか?」  あれは大喜利なのか。 「そりゃもちろんマジなガチもあるだろうけどね、答えが欲しければ答えたくなる要素が必要なわけ。のっかりやすくするための土台くらい作らなきゃ、時間と頭を使って答えてもらうわけだからさ」 「ひょっとして芸人さんですか?」 「おいおいこんなスーツ姿の芸人がいるかよ、っているか。考えてみたら芸人のスーツ着用率高いな」 「すっごく派手なスーツの方もいますけどね」 「まあ、芸人のスーツは衣装だからね。それで話って?」 「前に話した同級生なんですけど」 「ああ、もと学級委員の、凜ちゃん?住む所は見つかったの?」 「ええ、まあ」 「そりゃあ良かった」 「それがそうでもなくて」 「お家ってやっぱり大事だね、見つかって良かったって話じゃないの? もしかして賃貸料が五百万の超豪華物件?」 「そうじゃなくて。いや、まあ住む場所と無関係ではないみたいなんですけど、住むところがないと人は弱くなるというか、罠にひっかかりやすくなるというか」  あれ?  僕、今、何て言った?  からん、からりん、二つ並んだグラスから氷が溶ける音がした。  そうか。  そういうことか。  なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ。  偶然はそう簡単に起こらない。  確かにそうだよな。 「あなたと話したおかげで無事解決できそうな気がしてきました」 「ええ?」  彼は笑う。 「オレは、まだ何も言っていないけどね」 「いえ。ありがとうございます」  僕はスツールを滑り降りた。  存ぜぬ知らぬで通すことが無理なら、やはり確かめるしかないのだろう。
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