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「あのさ、あの時偶然会った、って言ったけどあれ嘘だろ?」
いきなり聞いた。
「何だよ急に、どうしちゃったの? あ、注文、お願いしまーす」
通りすがりの店員を呼び止めたのはきっとうろたえた気持ちを誤魔化す為だ。
「から揚げと、大根サラダ、肉じゃがと、あと何がいる?」
「揚げだし豆腐」
「かしこまりました、から揚げに大根サラダに肉じゃが、揚げだし豆腐、以上でよろしかったでしょうか?」
「よろしかったです」
調子よく鈴木が答える。
顔の向きを僕の方に戻すと「いや、あれ偶然だよ。マジびっくりしたよ。田舎ならともかく、東京でそんなことってあり得ないじゃん。だからそのままバイバイするのももったいない気がしてさ、そう言ったろ」と運ばれてきたビールを持ち上げた。
「お疲れ様」
「お疲れ様」
僕も答えてビールに口を付けた。
ごっごっごっと流し込まれていくビール、大丈夫か、そんなに一気に飲んで。そんなに酒が強いわけじゃないだろう? 少なくとも前回はそんなに飲まなかったじゃないか。
「あーうまっ」
すでに半分近く空になったジョッキを、テーブルの上にだぁんと音を立てておいた。
「大丈夫か?」
「だーいじょうぶ、大丈夫。でさ、あのあとどうしたの?」
「あのあと、って?」
とぼけると鈴木はわざとらしい笑顔を作り身を乗り出した。
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