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「翌日仕事だったからさ、早く帰らないとね、うん。そう言っただろう? それだけ。別にあせってたってことはないよ」
「ふーん。まあ別にいいけどさ。でもさ、村上と偶然会ったって言ってたけどあれ嘘だよな?」
「だ・か・ら、何回も同じこと言わせるなよ。なんでそんな嘘をつかなきゃなんないの? あ、これうまっ。居酒屋の肉じゃがって、イモが大きいのにほっこりしててすげー味が染みてるよな」
僕が同じことを何回も言うのはお前がちゃんと答えないからだろ、察しろよ、それでうまく逃れたつもりなのか、お腹の底に言えない本音が溜まり始める。
「あのさ、僕、泊めていないとは言ってないよ」
鈴木の箸が止まった。
「え」
へらへらと赤かった顔が素に戻る。
「だってさっき」
「なんで村上を泊めなきゃならないの、とは言ったけど、泊めていないとは言っていない」
「じゃあ泊めたのか?」
「お前が本当のことを教えてくれたら、僕も本当のことを言う」
「なんだよそれ。意味わかんねーよ」
「意味がわかんねーのはこっちの方だよ。もう一度だけ聞く。あの日偶然に会ったなんて嘘なんだろ?」
どう答えるべきか悩むように目が左右にきょときょと動く。
「本当のことが知りたいなら、本当のことだけを言え」
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