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がちゃん。
乱暴に箸を置いた振動で食器が揺れる。
「ああ、嘘だよ」
笑いがひっこんで真顔になる。
「だったら何だ。当たり前だろ。東京でそんな偶然あるかよ。栃木の町内じゃないんだから」
言わせたのは自分なのに、がっかりした。
少しぐらい、予想を裏切ってくれよ、つまらない。
「だったら二人で飲めばいいだろう? どうしてわざわざ僕を呼び出したりたんだ?」
おかげでいい迷惑だ、という言葉はかろうじて押し留めた。
鈴木は自分のお皿に置いたから揚げを箸でもてあそびながら「そりゃあ、それは、つまり、好きだからさ」と急に肩をすぼめた。
「好きなんだ。高校の時からずっと、今でも」
うつむいたままそれだけ言うと、鈴木は猛然と唐揚げを食べ始めた。
から揚げを食べ続ける鈴木につられて僕もしゃくしゃくと大根サラダをかみしめる。
たっぷりした水分と歯ごたえと、苦みと甘み、そこに加わる油で馴染ませた醤油の味。
黙々と食べていると、突然鈴木が箸を置いた。
「あっ」
鈴木の声が裏返る。
「ち、違うぞ。お前じゃなくて村上凜のことだからな」
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