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「もうだめだ。オレはもうだめだ」
腕を掴まれたまま鈴木はうめきながらよろよろ右に左に蛇行した。
「オレは村上凜が東京へ行くっていうから無理してがんばって出てきたんだ。今度会うときは好きになってもらえるようにがんばろうって。バカだろ、そんなことあり得ないよな。わかってたけどさ。わかってたんだよ。だってもう何年たった?いつまでたっても自信なんかつかないよ。その間に村上が他の男と付き合ったって文句なんか言えない。けどさ、誰よりずっとオレが一番村上凜のことが好きだ。それだけは絶対間違いないんだ」
わめきながら涙を流している姿を見ているもう呆れるのを通り越して感心してしまった。
しかし村上が見たら確実にドン引きだろう。
「鈴木、おい、しゃんとしろよ」
「あーもう、放っておいてくれよ」
「さっきのは嘘だ。村上とは寝ていない」
「いいよ、別に」
「ちゃんと聞けよ。確かに村上を泊めたけど、何もしていないよ」
「ああ?」
いきなり目を向いて「おまえ」と叫んだ後、へなへなと座り込んだ。
「もしかして、泣いてるのか?」
「山田、おれをばかにしているんだな。だから頭のいい奴は嫌いだ」
あれ? 似たようなことを最近言われたな。
頭がいい、じゃなくて頭が悪い、とまるで正反対のことを言われたのだが。
「僕だって泣きたいよ」
思わずポロリと自分でも思いがけない言葉が口から洩れる。
「あー?」
うなだれていた頭が少し持ち上がる。
「なんでだよ。あ、わかった。おまえ村上にふられたな」
「そんなんじゃない」
「隠すなよ」
「隠してない。それより、さっきの」
「オレはストーカーなんかじゃないぞ。ただ村上のことが好きなだけで」
「その話じゃなくて」
「何だよ」
「その、僕がゲイだって」
「あー、なんかちょっとそういう噂がたったことがあったんだよ。お前、全然女子に興味なさそうだったからさ。あんなに怒るとは思わなかった。ごめん」
あっさりと鈴木はあやまった。
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