僕は君に会いに行くよ

55/165

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「なあ、村上と宇津木の間に、何かあるのかな」 「あ?」  ぐずぐずになった顔を服の袖でこすりながら、鈴木がくぐもった声を出した。 「カケルがどうかした?」 「宇津木に会ったんだ」 「カケル? なんで? どこで」 「割と最近、偶然、電車の中で」 「嘘つけ。そんな偶然あるかよ」 「それがあったんだ。僕としてはできれば会いたくなかったけどね」 「わかるよ。オレだってあまり会いたくないな」  鈴木も同意した。 「それで?」 「普通だったよ。スーツを着てネクタイをしめて」 「カケルがスーツ。想像できない」  鈴木は顔をしかめた。 「そもそも何で東京にいるんだよ」 「おじさんの会社にいるって言ってたよ。宇津木不動産。錦糸町あたりの住所だった」  カケルに会ってダメになった気がする。  あの時、確かに村上はそう言ったんだ。 「村上も、会ったことがあるらしい」 「え? 村上が? いつ会ったんだろう」  鈴木は眉間に皺を寄せて考え込んだ。 「鈴木も知らないんだ」 「そんなに何もかも知っているわけないだろ。ストーカーじゃないんだから」  ストカーじゃない、と言う部分を強調する。 「わかった、わかった。でも、五百万の話は知っているんだろう?」  鈴木は苦々し気に口を歪める。 「ああ。なんで村上ばっかり、こんな目に遭うんだろうな」 「五百万、調達するつもりか」 「でないと、村上がヤバいだろ?」  調達してもヤバい、という発想が鈴木にはないみたいだった。 「少し、待ってくれ。調べたいことがあるんだ」 「調べたいこと? 何だ?」 「少し時間をくれないか。まだ考えがうまくまとまらない」 「なにかわかったらすぐ連絡をくれ」  ストーカーの癖に、ずいぶん偉そうじゃないか。 「おれたち、田舎からわざわざ東京へ出てきて、いったい何をしているんだろうな」  別れ際に鈴木が言った言葉を、電車を待っている間に思い出す。  本当に僕らは一体何をやっているんだろう。  少なくとも僕は、無関係のはずだったのに。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加