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「まさか、おまえに呼び出される日が来るとは思わなかったぜ」
「ホット」
宇津木が立っているおばちゃんに注文した。
「お前は?」
「同じで」
二、三歩で到達したカウンターでおばちゃんは「ホット、ツー」と店主らしき痩せた白髪まじりの男性に告げる。
「で、何の用?」
僕はポケットから折り畳んだ紙を取り出して渡した。
「六月十二日、五百円、七月二十日千円、何だこれ」
宇津木が紙を広げ、声に出して読みながらて顔をしかめる。
「三年間で僕が君に脅し取られ、いや、渡したお金だ。合計五万八千七百円」
「何だよ、今更返せってか? お前、細かくて執念深いやつだな。っていうか今頃になって何なんだ」
宇津木は下から舐めるように僕の顔を見上げた。
僕は平然を装い、彼の指が乱暴に動いて紙をくしゃっと丸め、テーブルの上に置いてあったアルミの灰皿に入れるのを見ていた。
「まあいいや」
ため息をついて宇津木はあっさりと懐からブランド物の長財布を取り出すと万札を六枚抜き出してテーブルの上に置いた。
「釣りはいらねえよ」
驚いた。
驚いたが、驚いている場合じゃない。
僕はこれから宇津木を相手に駆け引きをしなくてはならないのだから。
「いや、ここからこの間の缶コーヒー代をさし引いた額に慰謝料を加算して、五百万請求したいんだ」
「はあ?」
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