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宇津木は立ち上がった。
「ちょっと表に出るか。店に迷惑をかけるわけにいかねえからよ」
「あ、今のはちょっとした冗談……」
「あのな」
目を細くして下唇を少し突き出し、宇津木は座ったままの僕を見下ろした。
「笑えねえもんは冗談とは言わねえんだ」
なんて怖いんだ、同級生なのに。
自分から仕掛けたとはいえ、体中が縮こまって震え出した足が止まらない。
この威圧感。
今の僕に一番必要なものだ。
震えながらも大きく頷く。
「やっぱり、宇津木しかいない。慰謝料なんてどうでもいいんだ。五百万取り戻すのを手伝ってくれないか」
宇津木は奇妙な生き物を見るような目つきで僕を見た。
「お前、どっかおかしいんじゃないのか」
目の前に置かれた、節くれのある骨太い両手にすがるつくように手を重ねた。
「頼む」
ぎょっとした顔で宇津木は自分の手に重ねられた僕の手をすごい勢いで振り払うと「何だよ」と気味悪そうに後ずさった。
「それ持ってとっとと帰れ」
あごをしゃくりテーブルの上の万札を示すと、くるりと体の向きをかえ、出て行こうとした。
「村上を助けてくれないか」
足を止めて振り返る。
「村上って学級委員の村上凜か?」
「そうだ」
「あの、コーヒーは」
銀色のお盆を持ち、今まさにテーブルに持ってきたんですけどこれどうするんですかという顔でおばちゃんが聞いた。
店の扉前に立っている宇津木と座ったままの僕を見比べる赤い唇が、不満そうに下がっている。
「飲む」
宇津木は席に戻ってくると眉間にしわをよせ浅く椅子に腰かけた。
「どういうことだよ」
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