僕は君に会いに行くよ

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                * 「今晩だけでいいから、山田さんのところに泊めてくれないかな。私、今、家がないの」  村上の言葉を理解するのに数秒かかった。  家がない?  村上、お前、どんな生活をしているんだ?  そんなことを自分から言い出すようなタイプじゃなかった筈だ。  改めて見ると、目の前の彼女はくすんで疲れ切っているように見えた。  今の彼女は、正しくない。  高校時代の彼女はいつも正しさで溢れていたのに。  教室の中心で(まぶ)しいくらい、いつも正しかった。  そんな彼女を僕は遠くから見ることしかできなかった。  彼女を取り巻く多くの人が呼ぶように「リン」と呼んでみたかったのにとうとう一度も呼べなかった。 「泊めてくれる?」  男の、しかも僕なんかに「泊めて」というくらいだからよっぱど切羽詰っているのだろう。 「鈴木に頼めばよかったのに」 「鈴木さんは駄目よ」  村上凛は首を横に振る。 「だから山田さんを、呼び出したのよ」
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