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「山田、おまえ、カケルに何を言ったんだ? 何をどう説明したんだよ」
宇津木は鈴木を無視したまま、コーンフレークが残ったグラスを押しやるとコーヒーカップを手前に引き寄せた。
村上が砂糖とミルクの入ったトレーをすいと宇津木の方に押しやった。
「サンキュ」
迷わずスティックシュガーを一本全部、フレッシュミルクをぱちんと空けるとそれも全部入れた。
「……甘党かよ」
漆黒の液体が濁っていくのを見ながら以前もこんな場面があったような気がした。
「俺は村上が友達のバッグを失くして五百万を請求されている、って聞いただけだ。五百万円のバッグ。どこの富豪の娘だよ」
「バッグが五百万円じゃないよ。その中身だよ」
鈴木が声を落とす。
つられるように僕らの背中が丸まった。
宇津木だけがふんぞり返ってみんなを見下ろしている。
あの頃と同じだ。
廊下で、階段で、いつだって宇津木はみんなを見下ろしていた。教室では机に突っ伏して寝ていることが多かったからその時だけは頭の位置がみんなより低かった。
一階の廊下の角にあった自動販売機。はいつくばって小銭を拾わされた放課後。忘れたはずの些細な場面が脳裏をよぎる。
「中身ねえ。万札が五〇〇枚ってわけじゃないとしたら」
宇津木はふんぞり返っていた背中を丸めて僕らの方に向き直る。
「五百万円分のヤクとはまた中途半端でセコイ話じゃないか」
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