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照明を落とした光の中で見るグラスと氷と琥珀色の液体はなんて魅力的なんだろう。
その輝きは冷ややかで媚びることもなく、きれいだ。
「だから、呼び出した。彼女はそう言ったんだね」
「ええ。はっきりそう言いました」
「偶然、誘われたのではなく呼び出されたんだ」
「あなたの言う通り、偶然なんて早々起こるものじゃないってことです」
「でも、君が電話に出たことも、店に行ったことも偶然と言えば偶然だ。君は電話を無視することもできたし、誘いを断ることだってできた。そうだろう?」
「そうですけど」
「どうして、村上凛は君をご指名したんだろう」
「指名したわけじゃない。片っ端から電話して、たまたま僕が捕まっただけです。村上さんは鈴木以外ならきっと誰でも良かったんですよ」
「じゃあ、どうして鈴木は駄目なんだ? 山田ならよくて鈴木は駄目。その理由は?」
「わかりません」
彼はしばらく黙って何か考えているようだった。
僕は親指と人差し指でナッツをつまんで口に入れた。
かりっ、小気味いい音がはじける。
右手の親指と中指で大きな氷が入ったグラスを持ち上げて光に透かす。
「酒は見た目が大事だ。ウィスキーのロックほどきれいな飲み物はない。そう思わない?」
「ついさっき、僕も同じことを考えていました」
「気が合うね」
グラスを持ち上げている右腕には高そうな腕時計が重たい光を放っている。同じ山田でも随分違うな、と僕は感心する。
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