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「目立たない左手も実は活躍していたんだって思い知らされたよ。だって字を書くのも右手があればいいと思うじゃないか。でも、紙を抑える左手がないと、ありゃうまく書けないもんだぜ。ペットボトルのふたを開けようとするだろ? やっぱり動かないように支える手がないと開けられないんだ」
「左手の支えは必要ですね」
「そろそろ、行くよ。面白い話をありがとう」
「別にたいして面白い話じゃありません」
「君はよくやったよ」
スツールを滑り降りて彼は出て行く。
残された僕はひとり、自虐的な笑みを浮かべて残り少なくなったグラスを掲げた。
静かだ。
ショットバーの店内に耳をそばだてればメロディーをなぞることができるくらいの音量で音楽が流れている。
音楽に合わせて小さく首を動かしていると曲が終わり、やや間をあけてから次の曲が始まった。
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