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「きっと今までもすれ違っていたんでしょうね。お互い気がつかなかっただけで」
僕らは本についての感想や情報を交換し、いろいろな話をするようになった。
僕にとって山田さんは東京でできた、たった一人の話し相手だった。
偶然も捨てたものじゃない。
だったら今回もただの偶然かもしれないじゃないか。
そう思えばいい。
突然の誘いも、鈴木は駄目で山田なら構わないの意味も、家を失ったこともただのタイミング、たまたまの出来事、偶然だ。
そう思おうとしたのにグラスの氷を揺らし、残りのウィスキーを飲んでしまうと彼が言った。
「謎が解けたらオレにも教えてくれ。君は推理小説が好きだから、予想はついているんじゃないのか?」
「まさか」
僕はきっぱりと言った。
「本を読むことと、謎を解くことは違います」
「次に会う時が楽しみだ」
彼はスツールから滑り降りると片手をあげて出て行った。
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