僕は君に会いに行くよ

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「どういうふうに?」 「あいつは生徒手帳みたいに正しかっただろ? 自分でもそう思っていたと思うよ。いつも自信たっぷりでさ、私は間違っていません、って匂いがぷんぷんしてて、ムカついたな」 「まあ、ずっと優等生だった、って本人も言っていたから」 「そういう気配がまるで消えてた」 「そりゃ、ビル掃除して胸張れ、自信持てって言われてもね」 「違うね。山田、おまえは間違っている」  強い口調で言われて戸惑った。 「職業に貴賤はない、って教わらなかったか?」 「教わったけど、それは建前じゃないか」 「いや、違うね。どんな仕事でも自信を持って胸張ってやりゃあいいんだ。掃除だって立派な仕事だぜ。やっている本人がつまらねえ、くだらねえと思っている限り、どんな仕事でもクズになる。そういうもんじゃねえか。あの時の村上には嫌々やらされている、仕方なくやっている、っていう感じが見え見えだった。疲れ切ってさえない空気丸出しで同情通り越してがっかりした。見なきゃよかった、そう思った。所詮その程度の正しさしか持ち合わせていなかったんだよ、あいつは」  なんだこれは。  好き勝手さんざんやって迷惑かけ通しの乱暴者が、今頃何を言っている。
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