僕は君に会いに行くよ

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 真面目にやっていれば救われる。  そう信じて耐え忍んできたのに、宇津木のような奴は大人になってからツケを払うことになるのだと信じてきたのに、これじゃあ逆だ。 「で、村上はどうしてるんだ?」 「レイナや店長が何かするかもしれないから、とりあえず昼間は鈴木の家にいて夜は近くのネットカフェに泊まることにしたみたいだ」 「そうか」  最後に会った時、村上は言ったんだ。 「大丈夫。心配しないで。もうあんな馬鹿なことはしないから」  馬鹿なこと。  本当にそうだろうか。  結果的にはだまされてしまったけれど村上は働きたかっただけだろう?  なんとか住む場所を手に入れたかった、ただそれだけのことなのに。  騙された方より騙す方が悪い。だから村上は悪くない。そう言ってあげたかったのに言えなかった。  村上が今、一番欲しくてたまらないもの、わかっていてもそれはプレゼントできない。  でも。  こいつにはできるんじゃないか。
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