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天音先輩の葛藤
「でもね、ときどき不安になるんだよ。私の言動が相手を不快にさせているんじゃないかって。嫌われるんじゃないかって。人間不信ってやつだな。それで、また死にたくなってしまうんじゃないかって、自分も信じられなくなるんだ」
そこで先輩は一度口を閉ざした。他人から見ても分かる程にぐっと身を固くして、首を絞められているみたいな弱々しい声で言う。
「ねぇ、君はさ、私と一緒にいて嫌じゃない? 無理、してない? 君は優しいから嫌だと思っても我慢して、私に合わせているんじゃないかと思って。嫌なら嫌だと、はっきり言ってくれていいんだよ」
無理して作った笑顔ほど痛ましいものはない。その表情が痛くて苦しくて、まるで自分の心を針で刺されているみたいだった。俺は居ても立ってもいられなくなり、声を上げる。
「嫌じゃないですっ! 嫌なわけ……ないです」
好きな人の辛い顔は見たくなかった。思いが唇の先から溢れていく。
「天音先輩といると楽しいんですよ。常に刺激的で。そりゃ、ホラー映画とか絶叫系アトラクションは得意じゃないですし、むしろ苦手です。でも、一人じゃ絶対にやらないことができて、毎日が非日常みたいでそんなのもアリなんじゃないかなって思うんです」
言いたいことはたくさんある。伝えたい思いもたくさんある。だけど、まだ一歩が踏み出せない。
「──だから、嫌いになんかならないです。絶対に」
これだけは本当だ。素直な気持ちだ。その裏に先輩が好きだという思いが隠れているけれど。絶対に揺らぐことのないこの気持ちを伝えたかった。
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