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大きく見開かれた先輩の瞳から、真珠のような涙が一粒零れた。俺はギョッとして目を疑う。これは幻なんじゃないか。だって先輩が泣いている。しかも、俺の目の前で。
「えっ、せ、先輩、大丈夫ですか!? 俺、なんかマズイこと言いましたかね?」
「うるさい……黙れ。私は泣いてなんかない。これは汗だ。君が変なこというから、冷や汗が止まらなくなったんだよ」
「いや、俺、一言も泣いてるなんて言ってませんけど……」
「うるさい。どうしてくれるんだ。君のせいで汗が止まらないじゃないか。責任取ってくれよ」
瞬きをするくらいのほんの一瞬、涙を隠そうとする手の間から弧を描いた先輩の口元が見えた。震えの中に笑いが混じったその声は、どこか安心したように感じられた。
「分かりましたよ。俺のハンカチで良ければ、汗拭いてください」
「君、ハンカチ持ってたんだな」
「先輩は俺のことなんだと思ってるんですか」
「ふふ、ありがとう。今日、君に話ができてよかった。この話を聞いてくれたのが君でよかった」
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