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童子村、滞在前。
もう夏真っ盛りって感じ。芸術大学に入学してからもう何か月か経って、夏になった。芸術大学に入って初めての夏休み。
学校に友達はいるけど、そこまで親しくないって言うか。そこまで他人に関心向いてない。自分の夢を叶える為に必死で、そこまで人間関係のいざこざに巻き込まれて、思い入れをしたくないのが正直な他人に対しての本音。
思い出作りには必要不可欠なのかもしれないし、勉強だけじゃ物足りないし、想像力も養われないから、表面上だけヘラヘラして付き合っているだけ。
七月の下旬のこの気温。本当に、家でエアコンかけて引き籠っている方が良い。熱中症になっちゃうし。
夏休み中で今日はたまたまサークルとかの集いもなかったから、実家でゴロゴロしていたら、その「友達」のうちの一人の彩華(あやか)ちゃんから、メッセージが届いた。
「有紗(ありさ)ちゃん、童子村(どうじむら)?って、所で肝試ししに行かない。」
って。彩華ちゃんの彼氏と彩華ちゃんの彼氏の友達と私で、肝試しをしに童子村に行かないかと誘われた。
最近、またニュースでやっている都市伝説か何かの話。十五年周期で起こる、昔、童子村と呼ばれていた村で、その村に行って帰ってこられなかった者は変死体で見つかるって言う事件がまた、前回の事件から十五年後の今年、起きているらしい。
噂話によると、なんと、十五年周期で鬼が現れて、その鬼や妖怪たちが人間を食べるから変死体で発見されるみたい。
この話にあんまり乗り気ではなかったのだが、何かデザインとかの想像力を養える機会じゃないかと思って、彩華ちゃんに返事をした。
「その童子村って所から帰ってこられるか保証がないけど、行ってみたいかも。」
どうせ、ただの都市伝説だの怪談だのオカルトホラーの作り話だろうって思って、事件のことは抜きにして信じていなかったので、一緒に行くことにした。
信じていないけど、正直ちょっと楽しみになった。
あと、彩華ちゃん曰く、彩華ちゃんの彼氏の友達が、私の外見が好みだったので仲良くなりたいって言うのが、ちょっと鬱陶しかったけど。
私は、モデル並みに細くて背が高くて綺麗ってある程度は他人から言われる見た目をしているらしい。確かに身長は170センチもある。でも、私の外見が好きって言う男は大概、かなり見栄っ張りで謙虚さがなく傲慢な人達が多い。トロフィーワイフが欲しいタイプの男性には好かれるが、そう言う男性はかなり理想を押し付けてくるので苦痛。でも、あの噂の童子村へ行けるのならば、多少我慢しようと思った。
十五年前の童子村の事件のことを、吐き気を催しながら、ネットで検索していると、当時十五歳で今、三十歳の女性の生還者がいるらしい。
なんで吐き気を催したのかと言うと、ネットは無法地帯だから少し人間の無残な死体の画像等が小さく現れたりしたから。
肝心の童子村の生還者の話によると、童子村滞在時の記憶はないけど、衣服などは童子村にある神社に置かれて、発見された時は裸なのだそう。意識不明の重体になるけど、かならず二日、三日後ぐらいには病院で目覚めるみたい。
童子村からたった一人だけで帰ってこられたら、それって変死体の殺人事件の犯人として疑われるのではないかなって思ったけど、DNA鑑定とかでどんな犯人がどう体を触って殺したかって調べられるから冤罪になることもないのか。
童子村に入った直後に戻って来られた人達としばらくしてから童子村から意識不明の状態で戻ってこられた人では、証言が食い違うらしい。
童子村と呼ばれる場所で見つかった変死体はこれで三体目だと、テレビ等のメディアは騒がなかったけど、ネットや私たちが住む地域の人たちには噂話や怪談、都市伝説として騒がれていた。
童子村のことを調べていたら、あっと言う間に夕方になり、お風呂に入る準備をしていた。そして、彩華ちゃんからメッセージが届いた。
八月二日の午後七時ちょうどに、童子村に行かないかと。
私はスマホでバイトや合コンの予定がないかと確認して何もなかったので、彩華ちゃんにその日は空いていると返事をし、さっさとお風呂に入って、湯船に浸かって考え事をしていた。
どうして十五年周期でそんな事件が起こるのかとか、陰謀論的な何かなのかとか。オカルトで非現実的な話にも興味はあったが、もし本当に鬼や妖怪がいるのならば、どんな骨格をしているのか、どんな皮膚の構造をしているのか、特殊メイクでどうその妖怪や鬼たちの実物に近づけて人間に化けさせることができるのか等、実際に触って調べられるのではないかと、私はほんの少しワクワクしていた。そして、それだけではなく、おかしいことなのだけれど、自分の命を賭けられることにも若干のスリルも感じ、少しの恐怖もあると同時にやはり、童子村へ行くのは少し楽しみであった。
今夜は、遅く就寝することに決めたので、お風呂上りに、ホットミルクの代わりに夜更かしする為、ブラックコーヒーを飲んだ。
そして、童子村に出てくる妖怪の噂をネットで検索していた。
からかさおばけって言う、一つしかない目の傘で、その傘から人間の両腕が伸びていて、傘を持つ所が人間の片足になっている妖怪と、目一鬼(まひとつおに)と言う、出雲国風土記に登場する人喰い鬼や、三つも目がある鬼がいるとネットサーフィンして出てきた検索結果だったけど、案外、童子村に出てくる妖怪のバリエーションが少なくて、ちょっと意外だなっと、そのままネットで検索し続けていたら就寝する時間になったので、スマホを充電して、ベッドで仰向けになって目を瞑ってそのまま私は眠りに落ちた。
朝、起きて、スマホで時間を確認してから朝のシャワーと歯磨きを済まし、簡単な化粧を10分で仕上げてから朝ご飯をどこかのオシャレなカフェで食べて、鬼や妖怪のことを考えていてもっと調べたくなったので、私は私の地元の市立の図書館へ行ってきた。
市立の図書館の中に飾られていた手作りのPOPポスターや地元に演歌歌手がいつやってきてライブする等の日程が載ってあるポスターを見ていたら、私の目が惹く美術の個展の案内のポスターがあった。
「鵜飼 椿(うかい つばき)、没二周忌絵画個展」と、載せられていて、すでにお亡くなりになった若くて端正な顔立ちの男性画家の個展の案内だった。
日程は、来月の二十日だって。
童子村から帰ってこられたら、その鵜飼椿の個展に行って彼のことも調べようと、妖怪や鬼の怪談の本を持ちつつ、その本の表紙を見ながら鵜飼椿の個展のことを考えていた。
図書館で本を借りるのに図書カードが必要で、私はポイントカードとか管理するのが面倒くさい性分なので、図書カードは作らず、大学ノートに童子村の成り立ちが詳しく書かれている本を読んで、それを私なりに要約して書き込んだ。
童子村は、元々霊界と呼ばれ私たちがよく言う「あの世」と、私たち人間が住む物質世界である、「この世」の境界があいまいな場所で、鬼や妖怪がいる村。その村に孤独死したり、自殺したり、生前孤立して人々に愛されなかった男性の怨霊が迷い込み、その男性の怨霊が鬼となって童子村にある神社を拠点とし、この世に現れる村なんだそう。
今年、大学生になって初めての夏休みはやることが結構多いと、我ながら思い、バイトのバーのシフトをどうしようか等も考えた。
童子村に出てくる妖怪や鬼のこと、童子村からの生存者や、鵜飼椿と言う若い男の画家のことを図書館で調べていたら、あっと言う間に夕方の午後六時になっていたので、図書館の本棚に童子村のことが書かれている本や月刊のオカルト雑誌を元に戻して、鵜飼椿について分かったこともノートに書いてまとめて、夕飯の材料を買いにスーパーへ行って買って、ジュースを自販機で買ってベンチに座って飲んで休憩して、十分後にベンチから立って、家へ帰った。
家に着いた後は、お風呂の湯を沸かして、夕飯を作って、夕飯を作り終えた直後に入浴して、明日のバーのバイトのイメージトレーニングをしつつ少しささやかな幸せな気分を味わっていた。
お風呂から上がって、夕飯を食べて、今、私が興味あることについて、バーのバイトの給料で買った古いモデルのパソコンで調べつつ、ベッドでスマホを充電しながら彩華ちゃんに、童子村についてのメッセージを送る。
これが、私が大学生になって初めての夏休みの過ごし方だ。
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