童子村、滞在初日。

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童子村、滞在初日。

 たった今、八月二日の午後六時になった。 彩華ちゃんと約束していた時間より一時間ぐらい前の時間だ。 申し訳ないけどお母さんとお父さんに心配されそうだったから、彩華ちゃんの家に泊まりに行くと嘘吐いて、家の外に出た。 今日、一緒に童子村へ行くメンバーは、私と彩華ちゃんと、彩華ちゃんの二歳年上の彼氏の樹(いつき)君と、樹君の友達で私に好意があるらしい庵(いおり)君の、女二人男二人の四人メンバーで、樹君が運転するみたい。  午後五時三十分頃に夕飯を済ませて、化粧直しして午後五時五十五分に家を出た。若くして死んだ男性の画家の鵜飼椿のことも調べたかったから。 スマホの充電を切らしたくなかったから、ネットカフェに行ってパソコンで調べていた。 鵜飼椿の死因は事件性も事故の可能性もなく、自殺だと断定されている。だが、死ぬ一日前、彼が童子村の場所へ向かっていたという目撃情報もあるみたいだって。 そして集合時間五分前になって、童子村の近くにあって私たちの集合場所であるダイナーでトイレを借りて、そのダイナーの店の外に出て、ドアの前で立って、彩華ちゃんと樹君と庵君を乗せた車が来るまで待っていた。  午後六時になり、彩華ちゃんと庵君が乗っていて樹君が運転している車が、私の真ん前に止まって、彩華ちゃんが車の窓を開けて、私に手を振って声をかけてきた。 「有紗ちゃん、こっちこっち。」 「うん、わかった。」 私は、樹君の車に乗って後部座席に座った。運転席には樹君、隣には彩華ちゃんが座っていて、後部座席で私の隣には、初対面の庵君が座っていた。 「初めまして、東雲 有紗(しののめ ありさ)です。今日、よろしくお願いします。」 「有紗ちゃん、僕のこと彩華ちゃんから聞いているでしょ。別に敬語じゃなくて良いよ。改めまして、西宮 庵(にしのみや いおり)。今夜は樹と彩華ちゃんと共によろしくね。」 庵君、ちょっとなんだか思ったよりチャラかった。正直、苦手なタイプだわ。  夏の夕方の六時と言えば、私の地元では、まだまだ夕焼けにならない。 童子村は、夜にならないと出現しないから。なんせ、肝試しなのだし、夕焼けから夜にかけてじゃないと雰囲気もないでしょ。 彩華ちゃんがスマホのナビを使って童子村の場所を調べているのだけど、まだ何も見当たらない。なので、彩華ちゃんに提案をしてみた。 「夕焼けから夜にかけた時間帯じゃないと、童子村に到着しないんじゃないかな。今は、近くにコンビニあるか探そうよ。念のために。」 「有紗ちゃんの言う通りかも。夜じゃないと肝試しにならないし。樹くん、今から、近くにコンビニがないか探すよー。」 「わかった。彩華。」 樹君は、近くにコンビニがないかドライブし始めて、私たちはお互いの近況やお互いどんな講義をとっていたか、とっていた講義の教授のことを話し合って、コンビニを見つけてコンビニで夜ご飯を買ったり、トイレを借りたりしていたら、やがて夕方の午後七時になり、樹君が彩華ちゃんの指示に従って、童子村まで運転した。  車の窓から見た夕焼けは赤くて綺麗だった。 夕日から夜空に変わり始まる前に、「童子村行」と言う青い道路標示を見えたので、そのまま真っすぐ向かい、童子村の入り口と思われるお地蔵様が沢山置かれてある、昔の道路だと思われる土でできた道路に、車を止めて降りた。 車を止めた場所の真ん前に大きい朱色の鳥居があった。童子村と呼ばれているが、普段は神社なのかなって思いつつ、いよいよ、彩華ちゃんと樹君と庵くんと一緒に私たちは、童子村へ入る。不謹慎ながら、遺書でも書いておけば良かったかな、なんて言う考えが過ってしまった。 童子村の入り口周辺と思われる風景を見ていると、子供の頃に見た木の図鑑を思い出した。ヒイラギとヒサギとエノキとツバキと思われる木が生えている。 どの木も、漢字の部首である木へんに春夏秋冬の漢字の名前の木だった。鬼や妖怪も言葉遊びをするのかなって、一人でニコニコ考えていたら、庵君に怪しまれちゃった。  大きい朱色の鳥居をくぐって敷地内に入ったら、段々、その敷地内の雰囲気が変わってきた。なんだか、おどろおどろしい危機感をなぜかわからないけど感じる。 童子村と言っても、ただの山奥にある無人神社としか思えなかったが、神社だから何かしらいるかもしれないと、私は再び直感で危機を感じていた。 彩華ちゃんも何かを察知して、樹君と庵君の二人の男に怖がりながら、 「や、やっぱり行くのやめにしんない?」 と、涙目で童子村に行くのを阻止しようとしていたが、樹君はあんまり本気にしないで、彩華ちゃんが言ったことを聞かずに、 「大丈夫だって。」 と一言、彼は言い、みんなで童子村の敷地に入った。  何かがオカシイ。すぐにこの世の者と思えない生き物がいる。童子村に行く前に図書館で読んだ妖怪図鑑に出てくる、妖怪や鬼らしきものが目の前で私たちを見ていた。 からかさおばけや河童、成人男性と同じぐらいの身長の一つ目の鬼が、私たちを一斉に見てきた。 彩華ちゃんが震えながら、私の体にしがみついてきた。 「なんなのよ、これ…。」 彩華ちゃんがしがみついて私の体が動かしにくいっていうのもあるけど、私も恐怖で体が固まって震えて動けなくなった。 樹君と庵君も、恐怖で震えて、樹君が大声で、 「おいっ!!!引き返すぞ!!!」 と言って走って逃げようとした瞬間に、私にしがみついていた彩華ちゃんが、からかさおばけに彩華ちゃんの足を掴まれて引きづり降ろされた。 彩華ちゃんは恐怖で叫ぶけど男性陣も固まっているし、庵くんもとうとう別のからかさおばけに腕を掴まれて抵抗をしていた。 まずい。このまま放置していたら、二人とも死んでしまうと焦って、私は何とか体を動かすように勇気を振り絞って、私のお尻で彩華ちゃんの足を掴んでいたからかさおばけに体当たりをして、そのからかさおばけの腕から彩華ちゃんの足を無理矢理衝き離した。 その隙に彩華ちゃんは叫びながら走って逃げて、樹君に腕を引っ張られて走らす。 彩華ちゃんは泣き叫びながら悲痛な声で私の名前を呼ぶ。 庵君は庵君で、彼に危害を加えてきたからかさおばけを無我夢中で抵抗し、殴りつけている。 彩華ちゃんの足を掴んでいたからかさおばけに、私の体は掴まれて、私は死ぬんじゃないかと予感し、助けて欲しいのに恐怖で余計に声が出なくなっていた。  これが鬼に喰われるというものなのかと思った時、私の全身にしがみついていたからかさおばけは、私の右の首筋辺りに嚙みついた。 からかさおばけに、首筋を噛みつかれた瞬間、感じた事もない快感が体中に電流のように走った。 私は本能的にその快感が何の快感か分かって、さっきまで恐怖で声が出なかったのに、今度は無理矢理出てしまう声を無理矢理抑えていた。 これってもしかして、吸血鬼なのかと考えつつ、樹君と彩華ちゃんと庵君の声が、遠のいて聞こえる。 置き去りにされたのかと、少しって言うかかなり失望しつつ快楽から無理矢理出させられる声を抑えるのに必死で、からかさおばけにしがみついてしまう。そして、めまいも起きて貧血が起こってしまったかのように気を失ってしまった。  目が覚めると私は周りの景色を黙って見渡して、童子村にある神社の本殿の中にいると察した。 さっきのからかさおばけが、横たわった私の体の隣にいて座っていた。たどたどしく、からかさおばけは私に向かって話しかける。 「起キタノカ…?」 「うん。ってあれ?私、死んでいない?私を食べないの?」 「食ベナイ。食ベチャダメダカラ。」 「そうか。」 私はからかさおばけに返事して横になっていた体を起こして、からかさおばけに近づいてまじまじと見つめていた。 「何ダ?キサマ。」 不思議そうにからかさおばけは私を見返して、私は更にからかさおばけの傘の部分や目元、腕など触り始めた。 こんな感触なのか。これをどう特殊メイクで再現できるか等考えながら更に触る。 「オイ、止メロ」 妖怪が人間の動きに戸惑っているみたいで見ていて面白い。そして、私が気絶する前にやったことを、からかさおばけに問いただした。 「私の右の首筋に噛みついてそのままにしていたけど、何をしていたの?」 「オ前ノ血ヲ吸ッテ、鬼ニ会ワセテモ大丈夫カ確認シテイタ。」 「へえ。」 腕と足は普通の人間っぽいなぁと思いながらぺたぺた触っていたら、大きい一つ目の額に大きい一本角の鬼が私の前に歩いて向かって現れて、私とからかさおばけを見下ろしていた。  二メートルぐらいある大きい一つ目鬼と言うよりかは、ギリシャ神話に出てくるサイクロプスみたいだった。そしてこの筋肉で出来た肉体美。白い浴衣をかなり着崩していて、下半身は露出していないけど上半身は露出していた。 私は驚きながら、その一つ目鬼を見上げてまじまじと全身頭からつま先を見て、自分の知的好奇心を抑えきれずに、その鬼に物理的に自分の体を近づけて観察していた。 「何だ…?お前。」 と鬼は戸惑っていたけど、私はその視線を無視してその鬼の体を触って、彼の顔も覗き込んだ。 「これって特殊メイクとかじゃないよね?よくいる色白の日本人の肌と同じだし、肌の質感も人間そのもの。この目ってどうなっているの?」 失礼ながら、いつの間にかその鬼の顔の輪郭も頬も触っていた。 鬼はくすぐったい感覚を我慢して私の体を無理矢理力づくで、引き剝がした。 「変な人間だ。見た事ない。何なのだ?貴様。」 「ご、ごめんなさい。初めて見たもので、勉強の為につい、申し訳ございません。」 私は焦ってその鬼に謝った。 「喰ってやろうかと思ったが、やめることにした。おい、この人間の雌を風呂に入らせろ。」 鬼はからかさおばけを見て言った。 こんな所に温かいお風呂があるなんて驚きつつ、からかさおばけに案内されてお風呂に入った。 温かい部屋と明るい部屋がこんな童子村にあると思わなかった。 お風呂から上がったら、からかさおばけはいなくて、脱衣所みたいな場所には白い浴衣が置かれていた。新しい下着はなかったので、下着は付けずに鬼がいた部屋に行った。 なんで、こんなに普通の和風の家っぽいんだろう。 鬼がいた部屋に入ると、布団が敷かれていた。 これは、私にこの童子村と呼ばれる場所で住んで良いと戸惑っていると、一つ目鬼は部屋に入ってきた。 「何だ?そんなに驚いた顔をして。」 「え、あぁ、私を食べないのかなって思いまして。あと、何で布団が一つしかないのかって。」 「俺は貴様を気に入ったから貴様を食べないし、貴様は俺と同じ布団で寝るのだ。」 何故か添い寝を頼まれた。そして、何故か生理的嫌悪感が沸いたり恐怖を感じたりはしなかったけど、私は顔を赤らめて恥ずかしくなってきた。 「ただの添い寝をしてほしいのではないぞ。生贄の人間の雌よ。」  
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