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童子村、滞在二日目。
これって初体験扱いで良いの?私、人間じゃない人と流れでシてしまったんだけど。それとも、オカルト的な存在だから経験人数としてカウントされない?
こんな形で処女卒業するだなんて。
喰われるって、性的に喰われるってこと?こういう事だったの?
しかも初めてだったのに、痛くなかった。気持ち良かったって言う感覚の方が強い。
私は、まじまじと隣で寝ている一つ目鬼を見ていた。
こんなに人の体で包み込まれるように眠ったのは初めてかもしれない。この一つ目の鬼、二メートルぐらい身長あるし、筋肉がものすごくついていてダビデ像の体みたいだし…。
あんな体が人間の形をした別の生き物とスるなんて、私って変態扱いされちゃうのかな?
でも、応じないと自分の首が物理的に跳ね飛ばされそうだったから、命拾いで初めてシちゃったけど、案外、どうってことなかった。
しばらく病んだりしちゃうのかなって思っていたけど、やっぱり何故かどうってことなかった。
少し、羞恥心があったぐらい。あと、少し、顔を合わせるのが照れるぐらい。
それにしても、アソコまで人間のそのものとそっくりだったけど、やっぱり、私の初めての相手は人間扱いされないのかな。
それともこれって、ただの私の夢なのかな。でも、自分の頬をつねっても痛いし…。
あの鬼は、目が一つしかないから、瞼も一つしかないのかとまじまじと寝ている一つ目の鬼を見つめて、また私は少しドキドキしながら鬼の顔を触っていた。
輪郭と口元と鼻は人間そのもので、もしかしたら人間のそれらよりも整っていて、そのあたりもちょっと触っていた。
骨格辺りからして、恐らく美形の日本人男性と同じような造形っぽいよね。肌は本当に人間そのものって感じ。
そして、その一つ目鬼は目を開けた。
「一々、我の顔を触るな。人間如きが。」
私は焦って鬼の顔から自分の手を放す。
「ご、ごめんなさいっ。」
鬼は体を起こした後、ドスドス音を立てながら歩いて私たちが寝ていた部屋から、出ていってしまった。
昨日の夜は暗くてあんまり見えなかったけど、和風の部屋って感じでちょうど鏡があったので、この部屋に一人取り残された私は、自分の体を確認していた。
昨日、からかさおばけが私の血を吸ったと思われる傷跡ができていたことを見つけた。
自分の体も触って、いろんな角度を鏡で確認して、自分が生きていることや他に鬼や妖怪によってつけられた傷はないだろうかと、確認していた。
やはり、童子村の事件のようにもう私は死んでいて、先日のような変死体、溺死じゃないのに溺死のような死体や、見た目はなんともないけど内臓が損傷しまくっているような死体となって出てきて、今の私は幽霊なんじゃないかと、思い悩んでいた。
メモできるノートも筆記用具もスケッチブックも持って行ってなくて、私は後悔した。すぐさまスマホも探そうと思って、昨日、洗面所と思われる部屋で服を脱いだことを思い出し、部屋から出て、昨日来ていた服を探したけれど、無くなっていた。
そ、そんなぁ。
そう言えば、不思議なことに、私、お腹も空いてないし、トイレにも行く気になっていない。
…やっぱり、私は死んでしまったのかと戸惑いながら歩いて、昨日鬼と一緒に寝たあの部屋へ戻っていった。
一人で部屋にいていても、ものすごく暇だったので、どうやってこの神社の本殿から出て、この童子村からも出ようかと考えて、もう一度、部屋の外へ出ようとしたら、あの一つ目鬼が部屋に入ってきた。
やはり、この鬼は全体的に大きい。私の身長は170センチもあるし、子供の頃から他の男の子を含めた子供よりも背が高かったから、こんなに身長差がある感覚が子供の頃以来、久しぶりで少し戸惑っていた。あと、脱出することが鬼にバレてしまったんじゃないかと言う、焦りもあった。
「…何しようとしている?」
「あ、いや、昨日私が着ていた服がどうなったんだろうなって、思って、つい。」
「そうか。あの服は、蔵へ片付けたぞ。衣服は我が提供するから、ただの人間には必要がないだろう。」
一つ目の鬼は、そう言いながら部屋のふすまを閉じた。
「今から何をするつもりなんですか?」
「どうもしない。」
…会話がなくて気まずい。あの鬼のことを気にしないように精神的にがんばって、過去の童子村事件のことを思い出して、一人でグルグル考えていた。
確か、ネットでバラまかれている情報によると、十五年前の童子村事件で見つかった女の子の名前は、皆喜多 美鶴(みなきた みつる)さんで、今は三十歳の女性。皆喜多美鶴さんとは全く関係無かった彼女の同級生や彼女の両親の職場の人間、しかも違う部署の人間の変死体が五体ぐらい見つかっただけで、皆喜多美鶴さんは童子村から無事だったとしても、当時の彼女が住んでいた近所の人達やネットにいる人達から、「死神」だのレッテルを貼られて、名誉棄損として裁判にも発展したらしく、現実世界でも知らない人達から嫌がらせをされたり、わざわざ彼女の家に言って暴言を吐かれたり、彼女が外出先で暴言を吐かれるようになったり、それが原因で両親からも疎外されてしまって、それで心が病んでしまい、人間不信にもなり、今も精神病棟に通院しているらしい。
私も童子村から生きて帰れたら、同じ目に遭ってしまうのかな…?
鬼に、十五年前の童子村事件の話を聞いたら答えてくれるのか、それとも私は鬼に殺されるんじゃないかと、少し恐怖で震えながらあの一つ目の鬼に聞いてみた。
「あのー…、十五年前って何をしていたのでしょうか?十五年前、この村に来た人間達を食べてしまったのでしょうか?」
「十五年前…?覚えとらん。別の成仏した鬼が喰ったのだろう。」
「別の、鬼?鬼って、十五年周期で変わるものなんですか?」
「死んだ人間の雄の怨霊達が一つになり新しく鬼として生まれ変わるのは、人間達のようなすぐに老いる下等生物どもの時間の感覚だと、十五年前後の月日が必要だからな。」
「じゃあ、十五年前何が起こったのか知らないんですね。」
「あぁ。また下らないこの村での話が出ているのか。」
「そうですね。」
「すでにこの村へ来た人間を二匹、喰ったからな。美味しくなかったが。」
美味しくなかった?!
やっぱり、人間を物理的に食べるんだ。
一つ目鬼は、私を呆れた様子で見降ろしていた。
鬼が死んだ人間の男性の集合体だとすれば、何か鬼になる前の情報で何かわかることがあるかもしれないと、私はひらめいて鬼に色々思いついたことを聞いてみることにした。
「鬼になる前のことって、覚えていないのでしょうか?」
「あんまり覚えておらぬ。もしかしたら、話していたら思い出すかもしれないが、今、覚えているのは、それまで好きになったことがない外見の人間の雌に恋をしていた人間の雄が我の主格の魂であることだ。その人間の雄は、歳は十五辺りで画家として金儲けし始めたのだよ。繊細な絵を描く人間の雄だった。」
ん…?画家?
十五歳で画家デビューした男性で若く死んだ男性画家ってこと…?
童子村へ行く前に図書館で、童子村のことや妖怪のことを調べていた時に見かけたあの二年ぐらい前に亡くなった美青年画家の個展案内ポスターを何故か思い出した。
もしかして、その人が今回の鬼の正体…?
意外と早く鬼の正体がわかったような気がする。でも、その鬼の成仏のさせ方がわからない。さて、どうすれば良いのか。
「そんなこと知ってどうするのだ?」
「何かこの村のことがわかるのかと思いまして。」
「貴様、人間風情が何を考えておる?ここから脱出しようものなら、浅はかだ。なんせ、今から貴様が逃げられないように、結界を張りに行くからな。」
一つ目の鬼は、素っ気なく返事をして起き上がって歩いて、部屋の外へまた出て行った。
私が逃げようとしたのがバレていて、少し焦る。
別の方法でどう逃げようかとか、鬼って成仏させることができるのかと驚きつつ、どうすれば鬼の中にある魂を成仏させられるのかとか、試行錯誤していた。
童子村に来てから、私の体が少しおかしい。お腹が空いたり尿意を催したりしないし、一日の時間もわかりにくい。神社の本殿から見える光の加減でしか、この村が今、昼か夜か分からなかったので、一つ目鬼の行動を観察しておおよその時間を把握しようと試みた。
暇だったから、部屋の外へ出ようとして部屋のふすまを開けてみた。ふすまを開けられたんだけど、鬼が言っていた結界と言うものが張っていたからか、見えない透明の壁が貼られているような感じで、私は部屋の外へ出られなかった。
からかさおばけが通り過ぎる。そして、河童も。
外に出られないので仕方なく、今いる部屋の中を見渡す。
一冊の本を、見つけて読んでみた。
女子高校生ぐらいの年齢の女の子の写真が貼られていた。この人ってもしかして、皆喜多美鶴さんなのかな。
十五年前の童子村の事件の本なのかな。
こんな文章が書かれてあった。
「皆喜多美鶴さん、僕が好きだった同級生の女の子。僕の学校でのいじめを知って、どうやって止められるかどうか悩んでいた女の子。この村の神社に来て、僕のことといじめが無くなって欲しいと祈ってくれた優しい女の子。でも、僕は彼女を幸せにすることができない。誰かを呪う事しかできない鬼に成り下がってしまった。人間を食べるということでしか自分の恨みを晴らせない。僕が成仏したら僕が請け負うはずの不幸が、皆喜多美鶴さんが受け継ぐことになるだろうな。」
昔の鬼の日記みたいなものなのかと、思いながらまじまじと読んでいたら、一つ目の鬼が布団を持って、部屋の中に入ってきた。
一つ目の鬼が、ギョロッとした目つきで私を見下ろして話しかけてきた。
「何を呼んでいる?」
「貴方とは別の鬼が綴った日記を読んでいます。」
「どうしてこんなものが。置き忘れたというのか。」
「さ、さぁ…。」
よくわからないけど、童子村から生き残って帰れても不幸になるってこと?
嫌だなぁ。
無残な死体として帰るか、わざわざ苦しむことだとわかって生き延びて帰ってくるかが、童子村に入った人間の罪と罰なのか。
一つ目鬼が布団を持ってきたから気づいたけど、いつの間にか夜になっていたことを忘れていた。一つ目鬼はせっせと布団を敷いていた。
私も手伝おうとしようとしたら、
「邪魔だ。」
と、一蹴されてしまった。もちろん、物理的にではないけど。
「そう言えば、貴様の名前を知らぬ。」
「えーと、東雲有紗です。しののめは方角の東に雲で、しののめと読みます。ありさは有りえるの有に、さは糸へんに少ないって言う字です。」
「そうか。気が強そうな人間の雌の名前だな。」
一瞬、ちょっと怒りを感じたけど、何をされるかわからないから我慢した。
「風呂に入るか?この村にいていたら、別に汚れもしないし汗もかかないから風呂に入る必要も本当は人間の雌とは言え、必要ないがな。少し人間臭いぐらいだ。」
無神経なことを一々言ってくる偉そうな鬼だなぁ。
私は少し間をおいて考えて、お風呂に入ることに決めた。けど、同時に突拍子もないことも考えた。
「お風呂入らせていただきます。あの、その、せっかくですし、二人でお風呂に入りませんか?」
どういう風にこの鬼の造形を特殊メイクで再現できるか触って知りたい気持ちも強かったし、色々鬼について調べたかったから、一緒にお風呂に入ることを誘ってみた。
「何を言っておる。我と風呂に入ってどうするのだ?」
「どうもしませんよ。私、芸術大学で特殊造形について勉強していまして、つい…。」
「まぁ、良い。」
あれ?一緒にお風呂に入ることに了承してもらえた?
「それにしても、貴様は変わった人間の雌だ。我を見ても怖がらず、むしろ平気で我に近づいてくる。大した人間の雌だ。」
って、言う事で、この一つ目鬼とお風呂に入ることになった。
鬼はまじまじと私の全身を見まわして不思議そうに見つめていた。
昨日の夜から着ていた白い浴衣を脱いで、私は一つ目鬼と一緒に裸になった。
もうすでに一つ目鬼の前で裸になったことはあるけど、やはり昨日の夜のことを思い出すと、自分から提案したからとはいえ、恥ずかしくなった。
けど、鬼と性的に交わるってどんな感じなのだろうとかの方が、私の好奇心が今は勝っていた。人間から見たら、やはり私は変態扱いされちゃうのかな。それとも、尻軽女扱いされちゃうのかな。
それともこれが、女の人が一回セックスすると相手のことが好きになると言われる、セックストリガーって言うものなのか。
私は脱ぎ終わった後、鬼の肉体美に見とれてつつ、扉を開けて体を洗ってから、湯船に浸かった。一つ目鬼も相次いで湯船に浸かってきた。
鬼の口元を見ていると、鬼は私を怪しげに見てきた。
「何だ?人間。なぜ、我を見る?そんなに鬼が珍しいのか。」
一つ目鬼は口角を上げて私を見下したように、言ってきた。
その偉そうな口ぶりに腹が立ったし、やられっぱなしじゃ悔しいので、一つ目鬼の顔を覗き込んだ。
「珍しいどころか、人間の住む所には実在してないですし。」
私はそう言って、鬼の唇を見つめ、歯並びがどうなっているか確認していた。牙はあるけど、歯並びは整っている。その唇を見ていたら、鬼は顔を背けた。
「何をじろじろ見ている。」
「キスしたら、どうなるのかなって思いまして。」
そう言えば、昨日シてる最中、一つ目鬼の口元は人間そのものなのに、キスしていなかったなぁ。こんなこと言って殺されるんじゃないかと、焦ったけど、一つ目鬼は私を見つめてきた。
「ずいぶんと積極的な人間の雌だ。我は貴様のご主人様でも恋人でもないぞ。」
このにやけ顔、やっぱりちょっとむかつく。そして、鬼は、鬼の親指で私の唇に触れてきた。
普通、この状況なら、ドキドキしたりキュンキュンしたりするんだろうけど、私はそんな気分にならなかった。鬼はふと何か思い出したかのようにつぶやいた。
「貴様は人間の雌にしては、美しい分類だろう。絵画にしても良いぐらいだ。本当は、可愛らしいという形容詞を表している人間の雌よりも、貴様のような美しい造形をしている人間の雌の方が好きだったはずなのだがな。」
一つ目鬼の主格の魂が人間だった頃の記憶が戻ったような独り言を、鬼は言っていた。
「貴様と接吻をしたら、更に思い出すかもしれん。」
長風呂になってしまった。のぼせるって言う感覚はまだ残っていたんだなぁって。心なしか一つ目鬼の表情が、満足そうに見えた。
やはり牙があって、それのせいで少し痛かったけど、人間と同じような口と舌と歯をしていた。あと、歯並びはとても整っていた。
あと、とろけるような気分だった。相手は人間じゃないのに。
ふと思い出したけど、おばけとか幽霊とかって確か性的なことって苦手だったはずだよね?自分たちが死んでいるから。なんでだろうって、考えながら黙って歩いていたら、私たちは、昨日と今日一日中いた部屋へ入って、布団に横たわった。
「どうして、貴方は、私と人間がするような、その、性行為、所謂、人間が繁殖する為に行うことを私とするのでしょうか?」
「我もあまりわからぬ。本来、我らこの世の者ではない存在は、そういう行為や性的に誘発させるものは苦手なはずなのだが、もしかしたら、我ら鬼は誰かに愛されたかったのかもしれないから、そういう行為をしたくなるし、するのだろう。」
一つ目鬼は戸惑った表情で私を見て言った。
鬼とは言えど、まだ自分の事がわかっていない部分もあるのかと驚いた。
「どうして、私を抱きしめて包み込むのでしょうか。」
「我もわからぬ。人間だった頃を貴様と戯れて思い出したから、人間だった頃の感情も記憶も戻ってきたのかもしれないな。」
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