雪椿

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 どんよりと曇った、寒い冬の日。冷たい雲が街を暗く染めていた。僕は、重い病の祖母のお見舞いに来ていた。冷たく無機質にそびえ立つ大きな総合病院を出ると、上下薄い緑色の入院服に、黒いカーディガンを纏った少女がいた。細くて、か弱い体、病的なまでに白い肌、どう見ても病人だった。生まれたての子羊のように脚を震えさせていた。 「大丈夫ですか?」 思わず声をかけてしまったが、少女は安心したように、甘えるように返事した。 「私、今日退院なの。暖かい服が買える店に案内して?」 退院の日なのに、なぜ、まだ入院の時に着る病院の服を着てるのか少し疑問だった。だけど、寒そうに微笑む少女を見ていたら、洋服を買いに行くくらいいいだろうと思い、僕は近くの服屋に案内することにした。  少女は雪のように白い肌をしていて、楽しそうに僕と並んで街を歩いた。 「寒いけど、お洋服が買えるなんて久しぶりだわ。嬉しい!」 「何ヶ月くらい入院していたの?」 「う〜ん……ここの病院に来てからは、まだ1ヶ月くらいしか経ってないの。でも、前の病院でも入院してたから……というかずっと入院生活よ。私は」 「それは大変だね」 彼女は相当、入院生活が長いらしい。なんの病気かは分からないけど、大変そうだと思った。  「ここが、お洋服屋さんね。案内してくれてありがとう。私、入院中、外に出れなかったから、ここの街のこと全然知らないの」 「そうなんだ。ずっと外に出れないなんて、僕なら耐えられないなぁ」 「そうね……入院はつまらないわ。早く服を買いたいなぁ」 入店すると、彼女は暖房の効いたアパレルショップで婦人服を眺め始めた。小柄な彼女は、沢山の洋服に瞳奪われながら、何着か手に取り、小さな洋服を品定めしていく。 「試着していい?」 「いいよ」 彼女は、試着室に入り、自信満々に選んだ服に着替え、試着室を出てきた。 「どうかな……?」 黒のブラウスの上に白いジャケットを纏い、カーキのロングスカートを履いていた。さっきの入院服より全然暖かそうだ。 「いいと思う。似合ってるよ。これなら暖かそうだしね」 「ありがとう。暖かいわ」 彼女は、嬉しそうに照れながら、はにかんだ。真っ白な頬が少し紅潮し、お洒落な洋服に着替えたことも相まって一気に健康そうに見えてきた。病弱そうな彼女が少し元気になり、僕は安堵した。 「暖かいならよかった」 僕たちは、店を出て、午後の暗い白色をした分厚い雲の下に出た。気づけば、小さな雪が舞うように降りだし、風が街に白い粉を吹いていた。 「雪だ!初めて見た!」 少女は、幸せそうにはしゃいでいた。 「え?初めてなの?」 「うん。私、ちょっと前まで雪の降らないところで入院していたの」 そして、彼女は、少し気まずそうに言った。 「実は、今日、雪が降るってニュースでやってて、病院を抜け出してきちゃったの……」 「え!それはダメだよ。脱走しちゃったの?病気なんだし帰った方がいいんじゃないの?」 「うん……でも、昔から雪を楽しみたかったの。いつも、何もない毎日で、つまらなくて、空から何か降りてこないかなぁって思っていて……」 僕は、同情して頷いた。 「それで今日は雪が降るって聞いたから……私は、雪を見たことなくて、我慢できなくて……ごめんなさい……」 「早く、帰りなよ。看護師さんとかが今頃、心配してるよ」 「でも、雪が降り積もった街を見てみたくて……病室からじゃ見れないから。それで雪景色の中でお散歩してみたいの」 少女は、疲れているのか、少し体力的に辛そうに見えたので、僕はやめておくように説得した。しかし、彼女は病院の夕飯の時間の18時までは、帰らないと言い張った。仕方なく、僕は、見守ることにした。
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