【8】Angel or Devil

6/6
前へ
/53ページ
次へ
ラブと凛も到着した。 企画に参画したスタッフ達も駆けつけた。 「ラブさん、すみません。こんな予定はなかったんです」 前に彼の番組に出演していた。 「熊谷さん、あなた方の責任ではありません。あとは、警察と私に任せてください」 事務棟の1階を、対策本部にした。 館内の見取り図が開かれる。 「今回、デザイナーの七森華奈さんに、全てを任せたので、我々の知らないところで、色々な構造変更がされています」 「つまり、この図面は当てにならないってことね。間違いの元は排除して、確実なものだけで考えましょ」 「内部に動ける味方が欲しいな」 「富士本さん、やってみます。誰かコンタクトできるかも知れません」 「紗夜さん無理しないように、七森には近づいちゃダメよ」 「はい」 そう答えながらも、右掌が疼いていた。 「凛、どう?」 「防御は完璧ね、要塞並みだわ。沐阳(ムーヤン)を助けたいけど…相手が悪魔じゃ予測もできない」 (誰か…聞こえたら答えて。私は紗夜。誰か、聞こえたら答えて、私は紗夜…) 必死に集中する紗夜。 と…(紗夜…さん?) (はい!驚かないでください。刑事の紗夜です。あなたは…念じるだけでいいですから) (私は、設備担当の守山です。手間取っている間に、閉じ込められてしまって。携帯は車の中で困ってました) (中の様子は分かりますか?) (はい。ファンではありませんが、ここで開催される催しはいつも見ています。まさかあの娘が…) (お知り合いが?) (あのWitch役の七森華奈さん…だったかな。一度新宿駅で苦しんでいたのを介抱したことが…) (そうですか。何か変化があったら、呼んでください) 「前代未聞の立て篭り事件ね」 「七森の狙いは、あの開発を無にすること。そのためなら、関係者全員を…抹殺する可能性も…」 ラブの勘は、それを示していた。 「そんなこと…許されるわけないじゃない!」 「おっ、消防が到着したようだ。どこでもいいから入り口を作らねば」 富士本が駆けていく。 「彼女自身、あと僅かな命。自暴自棄にならなければいいのですが…」 「紗夜さん、この計画性から見て、七森華奈は、かなり冷静です。恐らく彼女は勘違いしているのではないでしょうか?」 「勘違い…ですか?」 「六芒星で守られていたとしても、彼女は魔力を得た。その代償として、早期発見の難しい膵臓がんになったと…」 「なるほど、あり得るわね。ラブさん、もしも代償が自分1人ではなく、母親と8000人の生命と知ったら、どうするかな?」 「危険な賭けですね、それは。これ以上命を奪うのをやめさせる、説得材料にはなりますが…今回の目的とは違うから」 ラブにも予測できない。 「復讐心は消え、アイツらの目論みを止めるため、確実な方法を実行しようとしてるって、彼女は、悪魔なのか、天使なのか分かんなくなって来たわ」 「少なくとも、無差別な殺人鬼ではない。しかし…知らずに手伝った生徒に罪はない。それに、開発した目的も悪意があってのことか、分からない」 「紗夜さん、例え善の目的であっても、人の意思を操ることは間違いです。この技術が残れば、必ず悪用を考える奴が出てきます」 「やはり、七森華奈と、コンタクトして、一度説得してみるしかないのでは?」 自分の右手に潜む、悪魔かも知れない存在。 その反応が心配で、踏み切れない紗夜。 「私がやってみるわ。話したこともあるし」 「ラブさん、頼むわ!」 入り口の破壊作業は難航している。 時間は多分あまり残されていない。 やるしかないと決意した。 悪魔との対峙を。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加