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ラブと凛も到着した。
企画に参画したスタッフ達も駆けつけた。
「ラブさん、すみません。こんな予定はなかったんです」
前に彼の番組に出演していた。
「熊谷さん、あなた方の責任ではありません。あとは、警察と私に任せてください」
事務棟の1階を、対策本部にした。
館内の見取り図が開かれる。
「今回、デザイナーの七森華奈さんに、全てを任せたので、我々の知らないところで、色々な構造変更がされています」
「つまり、この図面は当てにならないってことね。間違いの元は排除して、確実なものだけで考えましょ」
「内部に動ける味方が欲しいな」
「富士本さん、やってみます。誰かコンタクトできるかも知れません」
「紗夜さん無理しないように、七森には近づいちゃダメよ」
「はい」
そう答えながらも、右掌が疼いていた。
「凛、どう?」
「防御は完璧ね、要塞並みだわ。沐阳を助けたいけど…相手が悪魔じゃ予測もできない」
(誰か…聞こえたら答えて。私は紗夜。誰か、聞こえたら答えて、私は紗夜…)
必死に集中する紗夜。
と…(紗夜…さん?)
(はい!驚かないでください。刑事の紗夜です。あなたは…念じるだけでいいですから)
(私は、設備担当の守山です。手間取っている間に、閉じ込められてしまって。携帯は車の中で困ってました)
(中の様子は分かりますか?)
(はい。ファンではありませんが、ここで開催される催しはいつも見ています。まさかあの娘が…)
(お知り合いが?)
(あのWitch役の七森華奈さん…だったかな。一度新宿駅で苦しんでいたのを介抱したことが…)
(そうですか。何か変化があったら、呼んでください)
「前代未聞の立て篭り事件ね」
「七森の狙いは、あの開発を無にすること。そのためなら、関係者全員を…抹殺する可能性も…」
ラブの勘は、それを示していた。
「そんなこと…許されるわけないじゃない!」
「おっ、消防が到着したようだ。どこでもいいから入り口を作らねば」
富士本が駆けていく。
「彼女自身、あと僅かな命。自暴自棄にならなければいいのですが…」
「紗夜さん、この計画性から見て、七森華奈は、かなり冷静です。恐らく彼女は勘違いしているのではないでしょうか?」
「勘違い…ですか?」
「六芒星で守られていたとしても、彼女は魔力を得た。その代償として、早期発見の難しい膵臓がんになったと…」
「なるほど、あり得るわね。ラブさん、もしも代償が自分1人ではなく、母親と8000人の生命と知ったら、どうするかな?」
「危険な賭けですね、それは。これ以上命を奪うのをやめさせる、説得材料にはなりますが…今回の目的とは違うから」
ラブにも予測できない。
「復讐心は消え、アイツらの目論みを止めるため、確実な方法を実行しようとしてるって、彼女は、悪魔なのか、天使なのか分かんなくなって来たわ」
「少なくとも、無差別な殺人鬼ではない。しかし…知らずに手伝った生徒に罪はない。それに、開発した目的も悪意があってのことか、分からない」
「紗夜さん、例え善の目的であっても、人の意思を操ることは間違いです。この技術が残れば、必ず悪用を考える奴が出てきます」
「やはり、七森華奈と、コンタクトして、一度説得してみるしかないのでは?」
自分の右手に潜む、悪魔かも知れない存在。
その反応が心配で、踏み切れない紗夜。
「私がやってみるわ。話したこともあるし」
「ラブさん、頼むわ!」
入り口の破壊作業は難航している。
時間は多分あまり残されていない。
やるしかないと決意した。
悪魔との対峙を。
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