【0】プロローグ

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〜東京都新宿区〜 高層ビル群が立ち並ぶ西新宿エリア。 その中で、最も広い敷地面積を占める、国立東京メディカル大学病院。 リニューアル工事が完了したばかりの、真っ白な外観が、権威を誇示するかの様に際立つ。 その診察室で、3DのMRI画像を動かしながら、厳しい表情で見る国谷医師。 「膵臓癌(すいぞうがん)だね。しかも、カテゴリーM。多臓器への転移も見られます」 膵臓癌は、自覚症状が現れ難く、早期の発見が難しい癌であり、癌による死亡率としては、かなり高い。 「M…ですか…」 カテゴリーの分け方は幾つかあるが、T➡︎N➡︎Mの順に、絶望へと近付く。 「あと、どのくらいですか?」 「…えっ!」 無表情なまま、動揺する素振りもなく聞かれ、戸惑う国谷。 「…覚悟はできてる様だね。分かった。…この状況では、もう手術しても手遅れだ。抗癌剤治療をしても…」 「治療は必要ありません。痛み止めだけで結構です。それで…あと何日生きられますか?」 (まばたき)きすらしない。 「えぇ…個人差があり、はっきりは言えないが、経験上…治療なしでは、長くて一月かニ月。勿論、他の障害を誘発すれば、更に短くなる可能性もあります」 「わかりました。ありがとうございました」 深く頭を下げる患者に、掛ける言葉はない。 看護師が優しく肩に手を当てる。 「では、外でお待ちください」 「強めの薬も出しておくから、我慢しないで飲むんだよ」 「はい。助かります」 立ち上がって、また軽く一礼して出て行く。 「先生…大丈夫でしょうか?」 助けられない患者に、助かりますと言われ、看護師は大丈夫か?と問う。 何も助けてはおらず、大丈夫ではない。 さすがに医者として、無力さを感じる国谷。 ただただ、(いさぎよ)い姿に驚いていた。 彼の驚きは、これでは終わらないことを、まだ知る(よし)もなかった。
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