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白く染まる道に大きなライトが照りつけ、バスが近づいてきた。
ゆっくりと繋いだ手を放し、バスの運賃を取り出そうと財布を開けたところで、あっと声を上げる。
「どうしたんですか?」
「バス代、足りんくなった」
取り出した50円玉を見せる。
お汁粉を買ったせいで、100円足りなくなっていた。
「貸しますよ」
ごそごそとブレザーのポケットから取り出した100円玉が手に載せられる。
「明日、ちゃんと返してくださいね」
「卒業式って、1年生いないだろ」
そうでしたねの後、即座に手をポンと叩く。
「じゃあ20年後の……19時。ここに返しに来てください」
針がちょうど19時を指した腕時計を見せながら微笑んでいる。
ビープ音が鳴り、バスの扉が勢いよく開く。
「なんで20年後なんだよ。忘れてしまってるわ」
「20年後への手紙に書いたら大丈夫です!」
「なんでその話知って……」
頬を染めながらも凛として見上げてくる瞳に、言葉が詰まる。
「20年後……今日伝えられなかったこと、伝えますから」
「田中……」
「約束ですよ。20年後ですからね!」
閉まった扉のガラス越しに見る田中は、今までで一番寂しそうに笑っていた。
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