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紙の束を抱え、空いた方の手でガラガラと玄関の引き戸を開ける。
今では主のいなくなった室内はしんとして、屋外にいるのと変わらない冷たさだ。
荷物はそのままに玄関に腰掛け、封筒を開ける。
取り出した便箋の冒頭には「20年後の俺へ」と書かれてあった。
ああ、あれか。
卒業式の日に書いたやつだ。
通っていた高校では、卒業式の日に20年後の自分に宛てて手紙を書き20年後に受け取るという、タイムカプセルの郵便版みたいなことをやっていた。
20年経った今年、学校が送ってくれたんだろう。
手紙には、受験が終わり結果待ちであること、続いて未来の自分の予想が書かれてあった。
志望校に合格し大学生活を謳歌しているとか。
なりたかったロボット技術者になっているとか。
25歳で結婚して子どもが2人いるとか。
ほとんどがはずれていた。
人生は期待や予想通りにはいかないもんだ、と当時の自分に苦笑しながら読み進めているうち、最後の1行に目を細める。
「ちょうど20年後の日の19時、昨日のバス停の約束を果たすこと」
約束……?
何のことだ?
思い出そうとしても、20年も前の記憶はすっかり埃をかぶり、毎日積み重なっていく出来事に埋もれてしまっていた。
手紙に書かれた20年後は、明日だった。
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