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「お疲れ」
ジュウジュウと焼き鳥の香ばしい匂いが立ち込める居酒屋。
実家まで送ってくれた運賃の支払いという名目で、2人でビールグラスを傾ける。
「何かあったん? こっちに戻ってでもくんのか?」
顎に灰色のマスクをかけた佐藤が、唇からこぼれたビールを拭う。
「そういうつもりはないけど、そうなるかもしれない」
「なんだよそれ」
「こっちで一人でもリモートワークで仕事できるからさ」
「ふうん。ってお前」
佐藤が出しかけていた言葉をいったん飲み込んだ。
「……別れんの?」
「その一歩手前」
「バツイチの俺が言うのもなんやけど、よー話し合いな」
話し合う、か。
今さら話しても、うまくいくのだろうか。
彼女とつきあいはじめたのが2年前。
同棲した後、1年経ってから婚約して、半年後に結婚……と順調に進めていくつもりが、突如発生した新型感染症による社会の混乱ですべて中断してしまった。
買った婚約指輪は渡せず、親族への顔合わせもできないまま日々過ごすうちに、自分の親は他界。彼女も会いにいけないまま病気の妹を亡くしたと聞いた。
親族とは疎遠になる一方で、お互い在宅勤務になり彼女と顔をあわせる時間は増えた。
2人でいる時間が増えればより仲は深まると思っていたけれど、会話は逆に減って。
少なくなった会話もここぞと不満をお互い投げつけるような感じになり、そのうち避けるようになっていた。
その果てが、誰もいない実家への逃避だ。
「そういえば、手紙きた? 20年前の」
あれね、と運ばれてきたつくねをほおばる佐藤。
「ベガスで一儲けしてアメリカ暮らしって、あほなこと書いとった」
「英語1だったくせにようそんなん書いたな」
「20年後なんて想像つくわけないやろ」
手紙の最後の1行を思い出し、訊いてみた。
「卒業式の前日、俺なんかしたっけ?」
「何もしとらんよ」
「そうか」
「覚えとらんのか」
「……え?」
「冬実に告白するって言って、その時せんかったこと」
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