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卒業式の前日。
教室から出てくる冬実を捕まえるため、昇降口の脇で一人で待っていた。
帰らんの?と声を掛けてくる何も知らない友人達には適当な理由を言い、頑張れよと言いながらニヤニヤする佐藤には蹴りを入れる。
ホームルームが終わってしばらく経つが、冬実は3階の教室からなかなか出てこない。
見上げた空は重くどんよりとしている。
朝のテレビで、夕方から雪が降り夜には積もるだろうと言っていたのを思い出した。
「鈴木先輩!」
晴れた声に振り返ると、昨年の春バドミントン部に入部してきた1年生が俺を見上げている。
冬実と同じ名字の、田中夏帆だった。
「何してるんですか?」
「ちょっとね。で、どうしたん?」
「あの……ええと……部室にラケット忘れたままじゃないですか?」
「あ、そうかも」
先日、受験が終わり気分転換に部活に行ったとき置いて帰っていたのを忘れていた。
「やっぱり! 持ってくればよかったんですけど、間違ってたら嫌だなあって。今から取り行きます?」
部室の鍵を掲げて見せる田中。首を傾けるとショートボブがふんわりと揺れる。
ちょっとの間だけなら大丈夫だろう。
少しだけ考え、そうするよ、と返事をする。
ラケットバッグを肩にかけ部室を出ると、グラウンドを挟んだ昇降口に冬実の姿が目に入った。
「先輩……」
「悪いけどちょっと用があるから、あとよろしく」
何か言いかけた田中をその場に残し、足早に校舎の方へ駆け足で戻る。
土を踏む音と鼓動が、早くなっていく。
グラウンドの半分まで来たところで、冬実に近づく男子の影が目に飛び込んできた。
あれは……高橋?
同じクラスの高橋が、一人でいる冬実に声をかけていた。
ひとことふたこと話した様子の2人は、校舎と体育館の間を通り裏手の方へと消えていく。
まさか。
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