タイムカプセル・エンゲージ

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日が傾きはじめ、校舎をすり抜ける冷えた風に身体を縮める。 横に並んで校門を出ていく2人を、校舎の柱の影から眺めていた。 肩を寄せ合ったり、手を繋いだりする後ろ姿を目にしなかったのが、せめてもの救いだった。 「先輩」 気づけば傍に田中が立っていた。 俺の向けていた視線の先を確認したあと、こちらをどこか伺うような瞳。 ラケットを取りに行かなければ。 無意識に噛んだ唇を察したのか、バツが悪そうに視線をはずした。 何やってんだ。 これじゃただの八つ当たりだ。 張り詰めていた気持ちが切れ、ふぅと息を吐き、その場の段差に腰掛ける。 結果的に可能性はなかったのだから、これでよかったんだ。 むしろ無駄に傷つかずに済んだから、良かったじゃないか。 剥き出しのコンクリートは、座る人の気持ちなどお構いなく硬くてひどく冷たい。 「……あの人のこと、好きだったんですか?」 佐藤以外に話したことはなかったが、今さら隠したって無意味だろう。 どこからか本人に漏れ聞こえても、卒業してしまえば彼女と会うことなんて、もうないだろうから。 「まあ、そんなとこ」 背後から吹き付ける風に、白い雪の粒が混じり始める。 このままここにいても、何もないし、何も起こらない。 帰ろうと思ったその時、田中がどんと隣に座った。 「失恋かあ」 両手を後ろ手につき、口を開けたまま小雪を降らせる空を見上げている。 「あーあ」 ひどく間延びした声にかちんときた。 「うるせえ」 「好きな人が別の人を好きってわかるのって、辛いですよねー」 「なんだよ。いったい何様のつもり……」 睨みつけようとした顔は、目にじわりと涙を浮かべていた。 「私だって……先輩と同じですよ」
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