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制服のブレザーのポケットから取り出した手には、小さな白い手紙。
その中心には丸っこい字で「鈴木先輩へ」の文字。
えっ。
手を伸ばそうとするとくいっと引っ込め、組んだ腕に顔を埋めた。
「……可能性がないのに、渡せるわけないじゃないですか」
気づかなかった。
昨年入部してきた後輩達の中でも、とびっきり明るい彼女。
男女の境なく接するムードメーカーな彼女が入って、静かだった部活が一気に賑やかになった。
一人っ子の俺は、懐っこい妹ができたようでよく相手にしていたけど、兄ではなく恋の相手として思われていたとは。
舞い降りてくる雪は大きさを増していく。
くしゅん。
身体に比べて大きいマフラーの被さる肩が、小刻みに震えている。
どう接してよいかわからなかったが、このままだと彼女が風邪を引いてしまいそうだ。
ゆっくりと立ち上がり、座り込んでいる田中に声をかけた。
「……そろそろ、帰ろうか」
見上げる目は赤く唇を噛み締めていたが、突然ぶんぶんとかぶりを振り、ぷっくりした大きな目をパチパチとさせ手の甲で拭うと、急に立ち上がった。
タータンチェックのスカートをはたき、持っていた手紙をくしゃくしゃに丸めると、ブレザーのポケットにぐいと押し込む。
「先輩!」
顔をぎゅっと近づけてきた田中に思わずのけぞった。
「……な、なに」
「失恋した者同士、一緒に憂さ晴らししましょ!」
「いや、お前」
「カラオケ好きでしたよね?」
「そうだけど」
「なら決まりですね。時間もったいないからさっさと行きましょう!」
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