第十三話

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第十三話

「もう一度拾わないとね。」 れいこは、またしゃがんで書類を拾いなおす。すみれは、ご迷惑をかけるわけにはいきませんと言ったものの本心は嬉しくてたまらなかった。 「一緒に拾いましょう。」 そうみんなの憧れの的のれいこに言ってもらえたのが、飛んで跳ねるほど嬉しかったのだ。 「今度は落とさないでね。」 すみれは、れいこに書類を渡される。が、嬉しいせいか緊張がほどけたせいか足元がおぼつかない。それを見てれいこは、私のせいなのねと嬉しさに心の中で震えながら、すみれから書類を半分引き取った。 「一緒に持っていくわ。」 「そんな・・・そんなこと、れいこさんにさせるわけにはいきません!!私一人で行きます、私馬鹿じゃありません!そうですよね、れいこさん。」 なかなか躾が進んでいるようでうれしい答えだが、ここはまだ優しくしようとれいこはいつもの笑顔に戻って言う。 「じゃあ、すみれちゃんが三分の二持って?私が三分の一持つから。それなら、すみれちゃんの方が重いから、私に迷惑かけたことにならないわ。」 れいこは我ながら迷言だとは思うけれど、すみれにはこれくらいでいいだろうと奇妙な提案をした。 案の定すみれは、ぱっと明るい顔をしてれいこの思った通りの答えを返す。 「はい!私が重い方持ちます。れいこさんにご迷惑をかけられませんから。」 趣旨が入れ替わっていることに気づかず、すみれはにこにこと書類を持ち運びだす。 やっぱり、何かしら抜けている子だ。荒牧なおが心配するのもわかる。だからと言って邪魔されるのは嫌だし、すみれはそういうところが可愛い、愛おしい。壊したい。 「さぁ、一緒に行きましょう。」 れいことすみれはお互いにこやかな顔で書類を運んだのだった。 「ミカエル様、どこに行ったのかしら?そろそろお帰りになる時間だから・・・何かお手伝いしようと思ったのだけれど。」 みちるは、昨日と今朝の失態から挽回しようとれいこを必死で探す。 そんな時、女学生たちの話し声があちらこちらからして、否が応でもその内容が彼女の耳に入った。 「ねぇ、先ほどのミカエル様を見た?」 「もちろん!驚いたわ。」 「下級生の荷物を一緒に運んでいるなんて。」 「ミカエル様がよ!?」 「ミカエル様ってお優しいのね。下級生が困っている姿が放っておけないのね。」 「だって、確かあの子、一年生の徳島すみれでしょ?」 「あの子、ちょっと抜けたところあるから。きっと目に入ったのね。本当にミカエル様は私たちのことを見てくださっているのだわ。」 「あんなお馬鹿の子でも助けてあげるなんて。私もいつか助けてもらえないかしら。」 ミカエル様が荷物を持つ? 徳島すみれの!? みちるは慌てて女学生たちの元に駆け寄ると、愛するミカエル様と憎き徳島すみれの居場所を問い詰めた。 そして、息を切らせながらミカエル様の元へ走る。 「・・・!!」 職員室の前。笑いながら話すれいことすみれの姿を見つけた。 れいこは書類を抱えている。 今まで、れいこはみちるの荷物を持ったことなどあるだろうか。 今まで、みちるはずっとれいこの荷物を持っていた。 「どうして・・・?ミカエル様はおかしくなってしまったの?あれは優しさなんかじゃないわ。あの子に騙されているのよ・・・。」 みちるは、ぎゅっと唇をかみしめる。 そして、恐ろしい計画を思いついたのである。このような気持ちになるのもそのような計画を実行しようとするのも初めてだ。 神様は何と言うだろう。 私は悪魔になるのかしら。そうしたら私に罰が下るのかしら。 いいえ、いいえ。 悪魔はあの子よ。罰が下るのはあの子。 それを下すのは私よ。 みちるは、そう何度も心の中で言い続けた。 人が悪になるのはこうもたやすい。
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