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みんなで相変わらずだらだら喋ってて、銀杏並木の話になった。 銀杏並木はきれいだけど臭いんだって。瀬川が子供のころ銀杏の実をさわって耳たぶがかぶれてひどい目にあったんだとか言い出して、銀杏ってかぶれるんだっけ?しかもなんで耳たぶ?ってひとしきりみんなで笑った。で、ちょうど紅葉の時期だから見に行こうよって。 その日は予報とずれて朝からしっかりした雨で、しかも瀬川から珍しくドタキャンの連絡。またでいいかなって思ったけどそうLINEしたら楓から珍しく着信あって、行こうよって。バスでもいいしって。結局あたしたちはバスででかけた、なぜか二人で銀杏を見るために。 酔狂だなって、バス停降りて傘さして歩きながら思ったけど、こういう酔狂さは嫌じゃない。 銀杏はやっぱり綺麗だった。全体的に黄色い世界。ちょっと天気のせいで光がないからくすんだ黄色だけど。でも、今の時期だけの世界。並木ってだけで全然違ってみえるのは不思議。多分、身近に一本の銀杏の木があってもあまりなんにも感じないのに整然と並木になってると黄色すぎて見応えあって特別。 「臭う?」 あたしが色にしみじみしてるところに無粋な楓が言う。嗅いでみるけどあまり感じない。 「雨だから?わからないかも」 「なんだ。俺、鼻悪いからかと思ったけどそうか」 雨に濡れて銀杏の葉で歩道も埋め尽くされてる。うっかりすると滑りそう。銀杏はの葉は油分を含んでるから気をつけないと滑りますと天気予報のおじさんが言ってたんだった。あたしたちはしばらく雨の中、傘をさして少しだけ慎重に、でもどこか無理にはしゃいでしばらく銀杏並木を歩きまわった。はしゃがなければっていう気持ちがどこかにあったのはなんでだったんだろう。 帰りのバスはガラガラで、後ろのほうに座った。楓のいいところは、会ったときからそうなんだけど、沈黙がこわくない相手ってこと。つきあいは長くないのにはじめから気を使う相手って認識しなかったみたいで、喋りたいときはどちらかが喋るけど、なんとなく話題がないときはお互い黙っててもそんな気まずくない。あたしは濡れたバスの窓から濡れた街をなんとなく眺めてた、しばらく会話もなく。 楓の降りる停留所のアナウンスがあって降りる寸前、あたしのほうに向き直って、そのまま突然楓の顔があたしにおおいかぶさってくる。 そして… え?え?なに? そのまま何も言わずに、楓はバスを降りていった。
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