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楓は怒ると思ったのに、むしろいつもより落ち着いてみえた。悪く言えば、あたしを見下してる感じにすらみえる、余裕の表情。 こっちはこんなに興奮して明らかに言い過ぎてるのに。発した直後から言ったことを後悔してんのに。 「利用だと感じるのは自由。でもそうじゃなくて、単なる状況説明だから。それはそれ、これはこれ。経緯というか、環境説明しただけだからな。そこに囚われそうになってしまうのは優しいからなんじゃないか。でもそこは別に気にしなくていいから。ただ、俺はお前を抱きたい、それだけ。」 「そんなこと言う?そんなもの求める?普通」 「普通ってなんだよ。普通とかほんとどうでもいい。嫌なら嫌で断ってくれて全然いいから。 俺の欲求を素直に伝えてるだけだからそんな動揺するなよ」 「おかしいよ。好きでもなんでもない癖に、あんなキスとかだってありえないし」 楓の頬がさっと紅潮した。 「お前ほんとバカじゃね。前から思ってたけど、鈍感ぶるのもいい加減にしとけよ。鈍感てなんかいいこととかいいやつの態度くらいに思ってないか。お前のそういうところ見てていらつくわ」 吐き捨てるように言って楓はあたしを直視したまま言う。 「ほんとバカ。俺にここまで言わせる?頭から内臓まで心底ボロボロの今の俺に。正直、お前と会ったその日から思ってた。お前のこと好きになんないやつなんているのかって。ほんとそんなことできるやついるのか信じられん。どうしようもなかった。止めれんかった。顔見せてくれたらそのたびに次はいつかとまじで指折り待ってたよ。その日にお前が言ったことしたこと表情全部反芻しまくってたわ。気づかなかったわけ?俺にここまで言わせないと、気が済まないわけ?そんなのあり?」 言葉が出ない。どう返していいのか何を言うべきなのかわからない。どういう態度をとるのが正解なのかみえない。 「もういいよ。帰って」 「ごめん」 それしか言えない。 「頼む、謝るな」 楓は、らしくない小さな声で振り向きもしないまま言った。謝ることは許されてなかった。
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