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あたしたちはそれから何度か集まった。
2回目は退院できたからって、楓の家になった。瀬川とは小学のとき塾が一緒だったと後から聞いた。それでずっと今までつながってるところがほんと瀬川らしい。家にも何度か行ってるからってその時はあたしと待ち合わせて連れて行ってくれた。楓の両親が不在だったことをいいことにあたしたちは読書会なんだか雑談会なんだかわからないほどほとんど本以外の話ばかり、しかもバカ話ばかりして結構騒いだ。近所からクレームこなくてよかったってくらいうるさかったと思う。楓とは馬が合うなと思った。瀬川はちょっと優等生チックなところが時々鼻につくけどそんなところもないし、なんでもはっきり言うところが気持ちいい。瀬川はどの本の感想も、ソツがないというか中途半端。明言避けたがるから、そこをなんだかんだ二人で瀬川をからかっていじってしまって瀬川が憤慨するというお約束ができてしまった。瀬川ごめん。
「これはものすごい好き。好きすぎて出会えてよかったってこれ選んでくれた瀬川に感謝しかない。最愛の一冊かも」
ほんとにそう思った一冊。瀬川がなんでこんな作品チョイスしたのかはわからないけど、びっくりするくらいよかった。
「はじめてじゃね?晶がそこまでいうの。驚くな」
「いやあもう全て好き。最初の1ページから最後の1行まで」
「おまえほんと極端だよな。確かによかった、よかったけどそこまでか」
「こういうストーリー自体の深みだけじゃなくてプラス構成がうまくて圧倒される的な作品に弱いんだよね。展開も内容も好み」
「別にこういう話にハッピーエンドは必要ないとは思うけどちょっと読んでて辛すぎたわ俺には」
「確かに。とりかえしがつかない後悔みたいなの日常的にも誰しも経験あるもんなんだろうけど時代背景のせいでそこがちょっと重すぎるんだよな。展開が」
「展開としては悲恋になるのかもしれないけど、なんだろう悲恋にしても愛っていいなって。こんな焦がれあう関係って単純にいいなって」
「お前の愛への賛美とか初めて聞いたぞ」
「だよな、珍しい。晶でもそんなこと考えるのか」
「何それ。いや、でも多分自分に縁遠いからの憧れかも」
「縁遠いんだ。やっぱりな。そんな気はしてた」
「晶はなあ。いいんだけど、ちょっと男を遠ざけてるからな。」
「うるさいな、もう。遠ざけてるわけじゃないけど、こんなふうに人を好きになれるのがなんかよく意味がわかんないだけだよ。そういう瀬川はどうなの。なんだかんだ噂はちょくちょくでるけど結局ずっと彼女いないんだし、一緒じゃん」
瀬川はちょっと黙る。あら?このからかいはあまり空気読めてなかったのかも?
「まあな。一緒だよ確かに。こんなふうに誰かを好きになったことなんて一度もないし」
なんとなく気まずい空気で、楓が突っ込んでくれる。
「そりゃそうだろうよ。でないと土曜の午後にいい年の若いもんが3人集まって本についてあーだこーだ言ってないって」
瀬川はちょっと何か言いかけて、やめて、そして口を開いた。
「前から思ってたんだけど、この話は実は結局感受性の問題なんだと思うんだよな。みんないろんな感情が実はそれぞれに沸き起こってるもんだけど、それを増幅させていくか、封じ込めるか、認めるか認めないかっていう差の問題。何もない、何も感じないっていうスタンスで行けば、自然に封じ込めることになる。感じたい、求めてるってスタンスで行けば簡単に感情が増幅していくものなのかもしれないけど、それは状況によって出来たり出来なかったりしたくなかったりってことであって。恋に落ちるなんて簡単に言うけど意外に落ちてるっていう受動的事象じゃなくて、自分でコントロールしてんじゃないかって思うけどな。俺がそう考えててそういうタイプなだけってことなのかもしれないけど」
「んー要するに、何回も人を好きになってるっていう人は、その感受性が強くて、そんなの全然ないっていう人は鈍いってこと?」
「自分でそれを認めるか認めないかの差だと思う。同じような動揺があってもそれを動揺したと認めて受け入れて恋だと認識できる人、そうしたがってる人と、なんらかの抵抗感から、その動揺を気のせいだのありえないだのとにかく認めない受け入れない人間がいるってこと。」
「なるほどー瀬川の説おもしろいな。発端は一種の動揺説か」
また楓が茶化す。瀬川は珍しく饒舌だった。
「例えば、さっきの作品だってさ、なんで晶が感動するような恋として昇華できるものになってるかっていえば、枷があるからだろ。今の時代の俺らみたいに、お互い好きってなって盛り上がって何の障壁もなく、じゃ、つきあいますかってやってれば、ちょっとつきあってれば、やっぱり違うな、なんか違うなって別れたりして、偉大な恋に昇華する間がない。お互いの感情も募らない。あまりに簡単にはじまるから。強い気持ちに増幅させてるのはお互いの相性とか関係だけじゃなくて、周辺の要素、それこそ時代とか枷とか、あとは本人の心境みたいなのが大きいってこと」
「そうなの?でもみんないろいろ悩んでるみたいだけどな、よくしらないけど。みんな感情募らせてるからあんなに世間にラブソングが蔓延してんじゃないの?」
「おい蔓延いうな。蔓延は言葉のチョイスだめだろ」
「え、だめかな、まあ瀬川の言ってることはわかるよ。時代が違えば彼らは幸せに結ばれたかもしれない。でもだからといってそれが永遠で強固な感情だったかなんてわからないもんね。結ばれることができなかったからこそ、悲恋としてこっちは心を動かされてしまう、確かにね。なんなんだろうね。ちょっと考えさせられちゃうな」
この手の話はなんか苦手だからあまりつきつめて考えたことなかったな。あの瀬川がいろいろ考えてることにちょっとびっくりした。
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