「五」

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「お前、ユンに手出されてるのか?」 「なっ!!」 「慌てるところを見ると、まだ、生娘だな」 母屋につながる渡り廊下で、ユジンは、トウカをしげしげ眺める。 こんなところで、聞かれることではないだろうと、トウカは頬を染めた。 「お前、ここに来て何年になる?幾つになった?」 ユジンは、なお真顔で問うてくる。 「他でもねえ。お前を欲しいってやつがいる。こういう商売やってるとな、嫁もらうのも一苦労なんだ。まあ、そこいらの擦れた女をもらえばいいだろうが、そうもいかん時もある。相手は、武器も扱う大物だ。ここに来たときに、お前に目をつけたらしい」 寝耳に水の話を、ユジンは矢断ぎ早に言ってくれた。 「いいか、盗人は、欲しいものは無理やりにでも手に入れる。だから、断ることなんてできやしねぇ。まあ、俺が責任持ってやる。お前を泣かすようなことがあれば、いつでも言ってこい」 「あ、あの、私まだそんな……」 驚きから、口ごもるトウカを見て、ユジンは、じれったそうに、小さく息をついた。 「ユンのことは、あきらめろ。あいつの目は、もうだめだ。このままじゃあ、お前は、一生、ユンの世話に明け暮れることになる」 痛いところを突かれた。 トウカがこの屋敷で我慢できたのは、ユンがいるからでもある。  なんともいえない、やさしい空気を運んでくれた。 いつも、細やかに気を配ってくれた――。 ともかく、ユンの側にいると不思議と癒された。 寂しさだって微塵も感じなかった。 それなのに……。 「お前が、こうして生きていられるのも、盗人の家にいるからだ。忘れるな」 言い捨て踵を返したユジンを見送りながら、トウカは歯がゆい思いをかみ締める。 結局、自分は何もできない。ユジンに従うしかないのだろう。 あの時、さらわれなかったら、都の宮殿で、暮らしていた……。 ロラン……。 どうしているのだろう。 ……じいちゃん……。 「お別れなのかな?」 寂しげな声が聞こえた。 ユンが、たたずんでいた。 「あっ、あっ、ただ、商売のお話を……」 一番聞かれたくなかった人物に、知られてしまっのかたと、トウカは慌てた。 「兄さんが何をしているか、知っているんだ」 「ユン様?!」 知っていると聞こえた。 「血の匂いに気がつかないわけないだろ?私は、盗人の弟。そうさ、私も罪人なんだ」 トウカは、言葉が出ない。 ユンは知っていた。でも、ユンは……。 ユンは、盗賊なんかじゃない。 罪人なんかじゃない。 トウカの頬を涙が伝い、嗚咽が口から漏れる。 「泣かないで」 ユンが手探りながら、トウカの頬に流れる涙をぬぐう。 その仕草が、いっそうトウカの胸を締め付けた。
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