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「お前、ユンに手出されてるのか?」
「なっ!!」
「慌てるところを見ると、まだ、生娘だな」
母屋につながる渡り廊下で、ユジンは、トウカをしげしげ眺める。
こんなところで、聞かれることではないだろうと、トウカは頬を染めた。
「お前、ここに来て何年になる?幾つになった?」
ユジンは、なお真顔で問うてくる。
「他でもねえ。お前を欲しいってやつがいる。こういう商売やってるとな、嫁もらうのも一苦労なんだ。まあ、そこいらの擦れた女をもらえばいいだろうが、そうもいかん時もある。相手は、武器も扱う大物だ。ここに来たときに、お前に目をつけたらしい」
寝耳に水の話を、ユジンは矢断ぎ早に言ってくれた。
「いいか、盗人は、欲しいものは無理やりにでも手に入れる。だから、断ることなんてできやしねぇ。まあ、俺が責任持ってやる。お前を泣かすようなことがあれば、いつでも言ってこい」
「あ、あの、私まだそんな……」
驚きから、口ごもるトウカを見て、ユジンは、じれったそうに、小さく息をついた。
「ユンのことは、あきらめろ。あいつの目は、もうだめだ。このままじゃあ、お前は、一生、ユンの世話に明け暮れることになる」
痛いところを突かれた。
トウカがこの屋敷で我慢できたのは、ユンがいるからでもある。
なんともいえない、やさしい空気を運んでくれた。
いつも、細やかに気を配ってくれた――。
ともかく、ユンの側にいると不思議と癒された。
寂しさだって微塵も感じなかった。
それなのに……。
「お前が、こうして生きていられるのも、盗人の家にいるからだ。忘れるな」
言い捨て踵を返したユジンを見送りながら、トウカは歯がゆい思いをかみ締める。
結局、自分は何もできない。ユジンに従うしかないのだろう。
あの時、さらわれなかったら、都の宮殿で、暮らしていた……。
ロラン……。
どうしているのだろう。
……じいちゃん……。
「お別れなのかな?」
寂しげな声が聞こえた。
ユンが、たたずんでいた。
「あっ、あっ、ただ、商売のお話を……」
一番聞かれたくなかった人物に、知られてしまっのかたと、トウカは慌てた。
「兄さんが何をしているか、知っているんだ」
「ユン様?!」
知っていると聞こえた。
「血の匂いに気がつかないわけないだろ?私は、盗人の弟。そうさ、私も罪人なんだ」
トウカは、言葉が出ない。
ユンは知っていた。でも、ユンは……。
ユンは、盗賊なんかじゃない。
罪人なんかじゃない。
トウカの頬を涙が伝い、嗚咽が口から漏れる。
「泣かないで」
ユンが手探りながら、トウカの頬に流れる涙をぬぐう。
その仕草が、いっそうトウカの胸を締め付けた。
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