「六」

1/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

「六」

「すまんが……」 放浪の末、誰にどのように聞けば、あの栗色の髪をした男のことがわかるのか、ロランは十分理解していた。 ──国は乱れていた。 関所を通るたびに、役人に金品をねだられる。 道端には孤児が、やせ細ってうずくまっている。 さらに、人とは異なるロランの見掛けに目をつけて、怪しい輩が群がってくる。 そんな、人の世の裏側を見て、神など意味のないものなのだと、自分はただの飾り物なのだと、ロランはつくづく思い知らされた。 どうあれ、自分に下された評価は、正しかったことになる。 「ジンかもしれねぇなぁ」 小さな街の裏通り。 頬のこけた露天商の男がつぶやく。 手には、ロランが差し出した、玉の根つけを握っていた。 やっと、洗い物を干し終わり、トウカは息をついた。今日は天気がいい。 大きく伸びをして、日の光を浴びてみる。 「あの、どちら様?」 垣根の向こうで男がじっとこちらを伺っていた。 頭から長衣をかぶり、薄気味悪くもある。 ユジンの知り合いだろうか。風袋からすれば、あながち間違いでもないだろう。 「トウカ……か?」 男が、被る長衣をとった。 「ロラン?!」 銀の髪をもつ若者がいた。 やつれてはいるが、確かに、あの日別れたロランが……。 「探した」 「ああ!!なぜ!!」 ロランは宮殿で、堂神様と敬われ、帝と政を取り仕切っているはず。 こんな国のはずれに、それも、盗賊の屋敷にいてはならない。 もしかして。 都に行き着けなかったのだろうか。 「トウカ?」 何か叫び声のようなものが聞こえて、ユンは耳を澄ませた。 中庭で、トウカが誰かと話している気配を感じた。 しかし、仕える男達は、屋敷の表方に詰めている。 客が庭から訪ねてくるわけもなく、なんとなく、気がせいたユンの足はトウカのところへ向いた。 「お客様かい?……嫁にもらいたいっていう……人なのかい?」 ゆっくりと、回廊の柱を伝い、歩むユンだったが、自分でも思わぬ言葉を発していた。 気がせいたのは……。 トウカが、自分から離れてしまうと思ったから。 嫁に行ってしまうのではと、胸騒ぎがしたから……。 「嫁?」 屋敷の中から現れた、若者の発した言葉にロランは首をかしげた。 「違うわ!ああ!その、ユン様!ロランは人じゃないの!」 いきなりユンまで現れて、トウカはいったい誰に、何を話していいのか戸惑うばかり。右往左往してしまう。 「人……じゃない?」 「そうだ。私は堂神だ」 「トウカ?」 ユンも、混乱した。 男の声。確かに、誰かがいる。 そして、何かが起こっている。 だが、目の不自由な彼には、まるで見えない。いや、見えたところで、さて、理解できることなのだろうか。 聞かされたことといえば……。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!