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「六」
「すまんが……」
放浪の末、誰にどのように聞けば、あの栗色の髪をした男のことがわかるのか、ロランは十分理解していた。
──国は乱れていた。
関所を通るたびに、役人に金品をねだられる。
道端には孤児が、やせ細ってうずくまっている。
さらに、人とは異なるロランの見掛けに目をつけて、怪しい輩が群がってくる。
そんな、人の世の裏側を見て、神など意味のないものなのだと、自分はただの飾り物なのだと、ロランはつくづく思い知らされた。
どうあれ、自分に下された評価は、正しかったことになる。
「ジンかもしれねぇなぁ」
小さな街の裏通り。
頬のこけた露天商の男がつぶやく。
手には、ロランが差し出した、玉の根つけを握っていた。
やっと、洗い物を干し終わり、トウカは息をついた。今日は天気がいい。
大きく伸びをして、日の光を浴びてみる。
「あの、どちら様?」
垣根の向こうで男がじっとこちらを伺っていた。
頭から長衣をかぶり、薄気味悪くもある。
ユジンの知り合いだろうか。風袋からすれば、あながち間違いでもないだろう。
「トウカ……か?」
男が、被る長衣をとった。
「ロラン?!」
銀の髪をもつ若者がいた。
やつれてはいるが、確かに、あの日別れたロランが……。
「探した」
「ああ!!なぜ!!」
ロランは宮殿で、堂神様と敬われ、帝と政を取り仕切っているはず。
こんな国のはずれに、それも、盗賊の屋敷にいてはならない。
もしかして。
都に行き着けなかったのだろうか。
「トウカ?」
何か叫び声のようなものが聞こえて、ユンは耳を澄ませた。
中庭で、トウカが誰かと話している気配を感じた。
しかし、仕える男達は、屋敷の表方に詰めている。
客が庭から訪ねてくるわけもなく、なんとなく、気がせいたユンの足はトウカのところへ向いた。
「お客様かい?……嫁にもらいたいっていう……人なのかい?」
ゆっくりと、回廊の柱を伝い、歩むユンだったが、自分でも思わぬ言葉を発していた。
気がせいたのは……。
トウカが、自分から離れてしまうと思ったから。
嫁に行ってしまうのではと、胸騒ぎがしたから……。
「嫁?」
屋敷の中から現れた、若者の発した言葉にロランは首をかしげた。
「違うわ!ああ!その、ユン様!ロランは人じゃないの!」
いきなりユンまで現れて、トウカはいったい誰に、何を話していいのか戸惑うばかり。右往左往してしまう。
「人……じゃない?」
「そうだ。私は堂神だ」
「トウカ?」
ユンも、混乱した。
男の声。確かに、誰かがいる。
そして、何かが起こっている。
だが、目の不自由な彼には、まるで見えない。いや、見えたところで、さて、理解できることなのだろうか。
聞かされたことといえば……。
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