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「あの、その……私、堂者らしいの」
「なんだって?!」
トウカの呟きに、ユンは息を凝らす。
「トウカはさらわれた」
「……それじゃあ、兄さんが」
「返してもらおう。トウカはここにいるべきではない」
戸惑うユンなどおかまいなしに、ロランは訪ねてきた目的を切り出した。
「……トウカには、里がないものだと……思っていたから」
「あさはかな」
見下すような言葉をロランが浴びせた。
「そうですね。私は、何も見ていなかった。この目のせいにして……」
ユンは、つくづく自分がいやになった。
物を知らなすぎるという問題ではない。
そもそも、兄が賊であると知っていながら、どうしてあぐらをかいて暮らしていたのだろう。
「トウカ。行きなさい」
それが、最善なのだとユンは思う。
彼女を縛りつけてしまった罪ほろぼしになるだろう。
そして、少しは、人の役にも立つ。
「ユン様!でも、目が!」
「トウカが来る前は、ひとりだったんだよ?」
……今まで側にいたのは、何だったのだろう。
ユンの言葉に、トウカの胸は、きりりと痛む。
……ユンの言う通りだけど、でも……。
「トウカ」
言ったまま、ロランは黙りこんだ。
前にいるのは、あの時別れた少女ではない。たおやかな髪を小さくまとめ、淡い色合いの衣をまとう乙女。
そう、年頃の娘なのだ。
「ああ。すまない。私は神。迷いを見せてはいけない。ここにいなさい。トウカ、この男を好いているのだろう?」
人にはそれぞれ、あるべき姿がある。進む道もある。
前にいるトウカの感極まる表情を見て、彼女の歩む道は、自分とではなく、ユンと共にあるのだとロランは気づく。
正しき道を示してやることこそ、己の務め。
宮殿では、我を通しすぎ、国に混乱をまきおこしてしまった。
そろそろ、神らしきことをしてもいいだろう。
世の中は、十分に見てきた。
もう、飾り物の神ではない。
──しかし。
指先が妙に寂しい。
手持ちぶたさ以上の孤独を感じた。
トウカ……。
離れたくない。
そうだ、何のために今まで探したのだろう。
政を捨ててまで、さまよったのは、トウカと共にいるためではなかったのか。
生まれる前に感じた、あの安らぎが忘れられなくて……。
でも、私は、もう……。
そうだな。そうだ。
「これを植えるといい。また、会えるだろう」
ロランが、懐から何かを取り出し、トウカに差し出した。
「種?」
差し出されたものは、ロランの髪と同じ色に輝いていた。
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