19人が本棚に入れています
本棚に追加
さっきから、じいちゃんは、ほうほうと、ふくろうみたいにうなずいてばかりいる。
腕組をして、まるで愛しい子供か、孫でも見るように目を細め、実から生まれた男、ロランを眺めている。
「よく似合っている。さすがじゃ」
ロランは青い絹の衣を纏っていた。
胸元には丁寧に刺繍が施され、腰に房のついた赤い組紐を結んでいる。
とても高価なものだと一目でわかる代物で、これもお役人がもってきたのだ。
「むさくるしい小屋で申し訳ないが」
「いえ、私はこれで十分です。あとは、水さえあれば」
言って、ロランは、トウカを見た。
「そうかそうか。水が足りんか」
じいちゃんは、ご機嫌で、まだ肩を揺らして笑っている。
でも、トウカはちっともうれしくない。見知らぬ男に、睨まれているのだから。
その時、大鷹が飛び込んできた。
煙突から、暖炉へ転がり落ちたおかげで部屋中、細かな灰が巻き起こった。
ゲホゲホとじいちゃんはむせながら、飛び込んできた大鷹を捕まえると、足に結ばれている皮の筒を取り外した。
「やれやれ、お前、暖炉に火がついていたらどうしてた?丸焼けになっておったぞ」
大鷹は、不思議そうに首をひねっている。
「トウカ、ご褒美の肉」
お役人が、じいちゃんと連絡を取りたいときは、大鷹を使って、手紙をよこす。
なにしろ、ここは山の頂き。人の住む麓の村へ行くには、一日がかり。
さらに、お役人がいる役所がある街へは、その村から二日かかった。
一日と二日。
つまり、ここにくるだけで、三日もかかることになる。
ところが、大鷹を使えば、半日とかからない。
特別な訓練を授けていて、だから、そんなにも速く飛ぶことができるのだという。
トウカが干し肉を差し出すと、大鷹はいつものように、つるりと飲み込んだ。
「おやまあ。手をぬきやがった。うん。トウカ。仕方ないな。お前が、ロランを連れて行け」
「え?」
役目の終わった大鷹を、窓から放っているその横で、じいちゃんは、とんでもないことを言ってくれた。
「じいちゃん?!ここへお役人が迎えに来るんでしょ?!」
「ああ、そのはずだったが、村で合流しようと言ってきている」
「どうして!」
トウカの叫びに、じいちゃんはびくともせず、大鷹が運んできたお役人からの手紙を、ぺらぺら振って見せた。
「さあ。まあ、この山を登って来るのが面倒なだけじゃろう。ロラン。トウカに着いて行け」
言われて、ロランも眉をしかめた。
「あの、主は、あなた様では?」
「トウカが水をやった。お前を育てたのはトウカじゃろ?」
「まだ、子供ではないですか!」
ロランは、納得がいかないとばかり、声を荒げた。
「子供?トウカは、ちゃんと読み書きもできる。神ともあろう者が、みかけに惑わされてはいかんな」
じいちゃんは、顎髭をなでると、ロランをいさめるように見た。
「……水はまだか」
口惜しそうに、ロランはうつむいている。
「私は疲れている。休みたいのだ」
「そうだな。そうだ。トウカ、水を張ってやれ」
最初のコメントを投稿しよう!