「一」

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さっぱりわからない。 ただ……。 確かなのは、ロランが眠る時には龍の姿になるということ。 塗りの施された、たらいの中で、一匹の白龍がたゆたう姿は美しかった。 ……やっぱり、実からは龍が産まれたことになる。 水に浮かぶ小さな龍を見ながら、じいちゃんは微笑んだ。 「今はまだ、手のひらに乗るぐらいの大きさじゃが、だんだん、大きくなっていく。すぐ、このたらいから、はみだしてしまうだろうよ。トウカ、都は楽しいぞ」 「じいちゃん?都って?」 「どうした?うれしくないか?」 いつも、じいちゃんと一緒だった。それなの、確か、都と言った。 いったい都がどういうものか、どこにあるのかさえも知らないトウカにとって、うれしいも何も、戸惑いしか浮かばない。 でも、じいちゃんは、ニコニコと笑ってばかり。 「守護神をお世話する堂者(どうしじゃ)は、共に、都へ行かねばならん」 「それは、じいちゃんの仕事でしょ!」 「この年寄りに何ができる?それにな、帝には、代替わりの申請をしておいた」 「代替わり?」 「とっくの昔に、お前が、堂者ということになっておる」 「え?」 「水をやったろう?お前は、十分、堂者として働いておる」 「何、それ!」 国の守護神が実るご神木を育てるのが、堂者と呼ばる人間で、トウカのじいちゃんは、何十年もこの仕事についている。 ご神木は、どこに生えるか誰も知らない。いきなり、普通とは違う木が生えて、龍神を実らせる。 ご神木が育っていると、報告を受けた堂者はその地へ出向き、木を育て、実から産まれた神を都へ送り届ける。 龍神は宮殿にある始祖を奉る堂に住み、堂神様と呼ばれながら帝と政を動かしていく。  もちろん、じいちゃんも、堂者だから国中移動した。 でも、トウカは……。 父さんと母さんが、流行病で亡くなったから、それで、この小屋にやってきただけで、じいちゃんが腰が痛いと言うから、代わりに水を運んだだけのことで……。 それをいきなり、堂者だと言われも、納得できるはずがない。
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