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「二」
「気をつけてな。村には、迎えが来ておる。大丈夫じゃろ?」
じいちゃんは、いつものようにのんきに構えている。
でも、朝からヤギの乳を用意してくれた。
今日が特別な日だと、じいちゃんもわかっている。だから、お祭りの時にしか飲まないヤギの乳を出してくれたのだ。
都に行ってしまえば、そう簡単に帰ってくることはできない。
堂者は、木を育てたように、生まれた龍神の面倒も見てやらねばならない。
つまり、宮殿で龍神と暮らすことになるのだ。
それが、いつまでなのかトウカにはさっぱりわからないけれど、じいちゃんと離ればなれになってしまうことだけは、しっかり理解できていた。
見送りを背に受けて、トウカはロランの乗る馬の手綱を引いた。
ロランは、神様だから歩かせちゃいけないと、じいちゃんに言われていた。
馬上には、何食わぬ顔の神がいる。
小さなトウカを歩かせることなど、なんとも思っていないようだ。
村へ行くときは、トウカはじいちゃんと一緒に馬に乗った。
じいちゃんの懐に収まって、手綱を持たせてもらえた。
でも、今日は――。
それに、あの塗りのたらいを、くくりつけているから、馬には一人しか乗れなかった。
そんなにも、ロランは偉いのだろうか。
不満を抱きながら、トウカは馬を引く――。
特に話すこともなく、小屋を出てから二人はずっと、だんまりのまま、うっそうとした森のなかを進んで行た。
ところが……。
「どうした?」
立ち止まるトウカにロランが声をかけた。
「……鳥が……」
空に、黒点が見える。ばたばたと羽音がこだましている。
「あんなに、飛び立ったりしないのに」
「はっ、鳥は飛ぶものだろう?」
おびえるトウカに、ロランは呆れ顔を向けた。
「そうじゃなくて!」
森の中で、鳥があそこまでせわしなく飛び立つことはない。きっと、身に危険を感じたに違いない。
何かがいるのだ。
トウカの不安を煽るように、ガサガサと辺りの茂みが揺れた。
いったい、こんな森の中で……。
と、茂みの中から、馬に乗った男達が現れた。
「ああ。やっぱり。狼煙が上がったから、お宝が通ると思ったのよ」
先頭の淡褐色の馬に乗る男が声を発した。
ひときわ大きな体躯に、栗色の髪が目を引く。
異国からの旅人だろうか。
いや、違う。
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