「二」

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手綱を握るトウカの手に力が入った。 「何も、持ってない!」 「トウカ?」 ロランは、首をかしげた。 産まれたばかりの彼には、人というものが、世の中というものが、まだ飲み込めていない。 どうして、トウカが男たちに叫んでいるのか、理解できなかった。 「賊よ!」 のんきに構えているロランにトウカは声を荒げる。 「ご名答!そうさ、俺らは盗人だ」 栗色の髪の男が、ニヤニヤ笑ってくれた。トウカの足は、がくがく震えている。 「さて、何も持っていないって?じゃあ、そのご立派な成りをした、けったいな兄さんは、どう説明する?」 トウカに言葉はなかった。 高価な絹の衣をまとった、銀の髪を持つ男――、これを、どう説明すれば良いのだろうか。 ロランの身分を言ってしまえば、それこそ賊の思う壺。 大収穫と、身ぐるみ剥されるどころか命も、危ぶない。 ところが――。 「私は、堂神だ」 口ごもるトウカに代わりロランが淡々と答てくれた。 「ほぉ!!驚いた。お嬢ちゃん。悪いことは言わねぇ。その手綱をよこすんだ」 栗色の髪の男は、そらぞらしく声をあげ、仲間に目配せした。 たちまちに、馬の鼻息がかかりそうなほど、賊たちはトウカに詰め寄ってきた。 「だめ……ロランは、帝にお仕えしかきゃいけないの。じゃないと国に災いが起こるんだから!」 トウカは、ありったけの声で叫んでいた。 トウカの父さんと母さんが死んだのも、一緒に遊んでたルウが死んだのも……。 病が村々を襲ったから。 大人達は言っていた。 都にいる堂神様が、国をちゃんとみていなかったから、帝に助言しなかったから、だから、病が民をくるしめるんだと。 ……きっと、どこかで新しい神様がお育ちになっている。 新しい堂神様なら、この乱れを、世の歪みを諌めてくださるだろう……と。 そう、堂神様が、しっかりしてくださっていたら。 父さんも母さんも、ルウだって……生きていた。 「仕方ねえなぁ」 何かに取り付かれたように、かたくなになるトウカを見て、栗色の髪の男の顔つきが変わった。 「ロラン!逃げて!!」 とっさに、トウカは馬の胴を拳で殴り付ける。 それしか思い浮かばなかった。 馬は(いなな)き、賊をなぎ倒すかのように駆け抜けた。 「行くの!!馬は、村を知っているから!!」 突然のことに賊も唖然として固まった。 その隙に、馬はロランを乗せたまま、姿を消した。
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