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馬は己が行くべき道を知っているのだろう。
ロランを乗せて、道なき道を勝手に進んでくれた。
だが、トウカに打たれた勢いがさめたようで、森をぬけた頃には歩みがのろくなっていた。
あぜ道のような細い道が現れ、人家がちらほらと見え始めた。
村に着いたのか……。
何か聞こえた。
鍬をもつ男が、こちらを見ている。
畑仕事の途中なのだろう。ロランと目があったとたん、大仰にさけび、一目散に駆け出した。
変わって、国軍の印、深紅の旗を翻す騎馬団が駆け付けた。
さっきの農夫が知らせたらしく、一団は、ロランを見るなり恭しく村へいざなった。
「どういうことだ!」
前にいる男は、一人カリカリしている。
ひときわ色鮮やかな衣を纏っているところを見ると、高位につく者なのだろうが、ロランがここに通されてからずっと、横暴な物言いで、皆に噛み付いていた。
「賊?堂者がいただろうに!!」
腹立たしそうに、息を吐き出し、男は、いる役所の貴賓室とやらを、右に左に歩いて落ち着かない。
「さらわれた。たぶん……。私をかばって……」
言いながら、ロランは思う。
これが、人の世なのだと。これから、この世を帝と正さねばならないのだと。
でも……。
自分の身の回りの世話をする堂者がいない。
「さらわれただとっ?!」
裏返った男の叫び声は、不快であった。
「だから、トウカをはやく探せ!」
ロランは、いらつきを、そのままぶつけた。
「なにっ!!」
が、耳障りな男の声が返ってきただけだった。
男は、叫ぶばかりで、何の役にも立っていない。
それでも、周りの者は、ひれ伏している。
水を欲するロランに、誰も目もくれず、ただただ、この叫ぶ男の機嫌をとろうとそればかりである。
「私は、疲れた。休む。早く水を用意してくれ」
場の空気に、嫌気がさしたロランは、静かに語ると、男を睨みつけた。
そのあまりにも冷ややかな双眸は、男にびくりと肩を揺らさせ、続いて、部下に命を言いつけた。
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