「二」

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馬は己が行くべき道を知っているのだろう。 ロランを乗せて、道なき道を勝手に進んでくれた。 だが、トウカに打たれた勢いがさめたようで、森をぬけた頃には歩みがのろくなっていた。 あぜ道のような細い道が現れ、人家がちらほらと見え始めた。 村に着いたのか……。 何か聞こえた。 (くわ)をもつ男が、こちらを見ている。 畑仕事の途中なのだろう。ロランと目があったとたん、大仰にさけび、一目散に駆け出した。 変わって、国軍の印、深紅の旗を翻す騎馬団が駆け付けた。 さっきの農夫が知らせたらしく、一団は、ロランを見るなり恭しく村へいざなった。 「どういうことだ!」 前にいる男は、一人カリカリしている。 ひときわ色鮮やかな衣を纏っているところを見ると、高位につく者なのだろうが、ロランがここに通されてからずっと、横暴な物言いで、皆に噛み付いていた。 「賊?堂者がいただろうに!!」 腹立たしそうに、息を吐き出し、男は、いる役所の貴賓室とやらを、右に左に歩いて落ち着かない。 「さらわれた。たぶん……。私をかばって……」 言いながら、ロランは思う。 これが、人の世なのだと。これから、この世を帝と正さねばならないのだと。 でも……。 自分の身の回りの世話をする堂者がいない。 「さらわれただとっ?!」 裏返った男の叫び声は、不快であった。 「だから、トウカをはやく探せ!」 ロランは、いらつきを、そのままぶつけた。 「なにっ!!」 が、耳障りな男の声が返ってきただけだった。 男は、叫ぶばかりで、何の役にも立っていない。 それでも、周りの者は、ひれ伏している。 水を欲するロランに、誰も目もくれず、ただただ、この叫ぶ男の機嫌をとろうとそればかりである。 「私は、疲れた。休む。早く水を用意してくれ」 場の空気に、嫌気がさしたロランは、静かに語ると、男を睨みつけた。 そのあまりにも冷ややかな双眸は、男にびくりと肩を揺らさせ、続いて、部下に命を言いつけた。
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