文通ノート

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文通ノート

『死んだ人に会える駅があるんだってよ』 そんな友人の言葉を信じて、僕はいま烏崎(からすざき)駅に向かっている。 もちろんそんな駅は実在するはずもなく、ネットで密かに噂されている都市伝説の一つだ。 そこに行ける条件は、八月の良く晴れた日の夕方。 車両に自分だけが乗車しているタイミングで、目を瞑ったまま六つの駅が過ぎるのを待つ。 ひと言も喋ってはならない。 次第に音が遠のくが、決して目を開けてはいけない。 音が消えて十数える。ドアが開く音を合図に目を開ける、というものだ。 クラスメイトの柏木が言っていた事を頭の中で思い出しながら、駅を数えていた六本目の指を折る。 揺れる度にがたんがたんと鳴っていた無機質な音が遠のいていく。  いち、に、さん、し、ご、ろく、 瞼越しに感じていた夕焼けの光までもが遠のき、数えるのを止めそうになった。    なな、はち、きゅう、じゅう。   変わらず瞼の裏は真っ暗だ。トンネルにでも入ったのだろうか。 無音と暗闇に不安が押し寄せる。膝の上で強く握った拳に汗がじっとりと滲む。 さっきまでエアコンが効いていたはずなのに、ムッとした空気で額にも汗が浮き出す。 突如、ざざっという砂嵐のような、とてつもなく不快な耳鳴りがして、目を閉じたまま耳を抑えた。  キィー…… 扉が開く音に、そっと目を開ける。 真っ暗だと思っていたそこは、さっきと変わらない柿色の夕空が広がっていた。
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