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八月十九日。翔太に会えて嬉しい。寂しかった。
寂しかったという言葉に、心臓が鷲掴みにされるような感覚を覚える。
震える手を抑えながら鉛筆を握り、文字を書こうとすると、またパンッと弾ける音が部屋の中に響く。
すると、僕が鉛筆の先を置いていた場所に文字が滲み上がって来た。
八月二十五日。来てくれた。もうどこにも行かないで。ずっと一緒にいようよ。
「美咲……。いるのか?僕の声が聞こえるか?」
しんとした空気のなか、帰ってくるのはいつもと変わらないヒグラシの声だけだ。
外は変わらず赤みがかった青い空と入道雲。昼間の熱を残した風。
いつもと同じだ。前回と。その前とも。
僕はここに残るよ。美咲といる。寂しかったよな。僕ばっかり友達や家族に囲まれて。美咲はずっと独りだったんだもんな。
書き終えて、僕はベンチに腰かけた。酷い睡魔に襲われ、軽くめまいがする。
「少し疲れたみたいだ。ちょっと休むよ。僕はここに残る。時間はたっぷりあるよ」
呟いて、ベンチに置かれた座布団を枕にして横になった。
瞼が重い。
最近、ずっと美咲の事ばかり考えていて寝不足だからだろう。
僕の意識はすぅっと水に飲まれるように遠のいて行った。
夢を見ていた。美咲と僕の家でお泊りをした日の夢だ。
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