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そこで目が覚めた。外は真っ暗になっていた。
駅舎に行ってみると時計は八時を指し、駅員の姿も無かった。
僕は待合所に戻り、ノートを開く。
嬉しい。翔太と一緒にいられる。美咲といてくれるんだね。
その言葉にようやく違和感を覚えた僕は、あれ?と口のなかで呟いた。
そうだ、美咲は翔太なんて呼ばない。
僕が弱っているのをよそに自分が喜ぶなんてしない。
彼女が助けを求めているのに、苦しんでいる姿を前に見殺しにする僕とは違うのだ。
これは美咲じゃない。そう気づいた瞬間、全力疾走した後のような息切れが僕を襲う。
高山にでもいるかのような息苦しさを覚えた。立っているだけでやっとだ。
柱や壁を伝い、ふらつく足で待合所を出た。
いつの間にか駅舎の電気も消えていた。
帰りたい。帰らないと。その一心でなんとか切符を買い、ホームに立った。
どうしたら電車が来るのだろう。明日まで待つしかないのだろうか。
途方に暮れた僕はその場に座り込み、膝を抱えた。
美咲に会いたかった。謝りたかった。それだけなんだ。
胸が詰まる。弱弱しい声で呻くように泣いた。だが、泣く体力すら無いのか涙は出なかった。
翔ちゃん。美咲はずっと翔ちゃんと一緒だよ。
空耳だろうか。まだ幼い美咲の声が聞こえた気がして振り返ったが、誰もいない。
すると、暗闇だった線路の向こうから、ゆっくりと電車が入って来た。
スピードを落として、やがて止まった電車は、僕の前で扉が開く。
「美咲?美咲が助けてくれたのか?」
だが、さっき聞こえた美咲の声は聞こえなかった。
早く乗らないと。
僕は四つん這いで電車に乗り込む。
なんとか座席に座った所でドアが閉まった。
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