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八月十一日 都市伝説じゃないよ。
烏崎駅に着いた僕は、ノートを広げて固まった。
僕が前回書き残した隣に返事があるのだ。
持っていた鉛筆が、床に落ちた音でハッとした。
どういうことだ。八月十一日って、僕が来た日じゃないか。あの日は七時前までここにいたのに、夜に誰か来たという事か?それに、都市伝説じゃないっていうのは……。
僕は駅員の所にノートを掴んで駆け出した。
「これ、誰が書いたのか知ってますか……聞いてます?」
駅員は今日も目が見えないくらい深く帽子を被ったまま、切符挟みを鳴らしている。
「あの!これなんですけど!」
イライラして口調が荒くなる。
すると、かちかちを止めた駅員の口元が、黄色い歯を見せてにやりと笑ったのだ。
あまりの不気味さに、僕は思わず後退った。
「会いましたか」
駅員の低い声。まだ若い男性の様な声だった。
「ここ、あなた以外誰もいないじゃないですか。だからこれを誰が書いたのか聞きたくてですね……」
「いるじゃないですか」
駅員は、白い手袋をはめた指で駅舎の外の通りを「あそこに」と指差す。
すると次々に「あっちにも」「ほらそこにも」「あそこの田んぼにも」と指し、最後に駅舎の壁に貼られたポスターを指さした。
大きく破れて、べろんと垂れているポスターを持ち上げてみる。
見た事もない沢山の電車がプリントされており、上には「国鉄」と書かれていた。
「こく、てつ?」
普通ならこういう場合、JRと書いてあるものでは無いのだろうか。
それに国鉄って、僕が生まれるよりもずっと昔の名前じゃなかったっけ。
辺りを見渡しても、駅員以外の人影なんて無い。
不安、混乱。色んな感情で血管がどくどくと脈打つ。耳の奥で鼓動を感じる。
ヒグラシの鳴き声が一層大きく感じた。
訳が分からず駅員を振り返ると、目元を隠していた帽子をわずかに上げた。
その瞳は真っ白に濁っていて、顔も青白い。
まるで生気が宿っていなかった。
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